いっぽー、にいほー ページ25
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ドアを開けた瞬間、やってもた、と思った。
違う人の、それも女性タレントさんの控え室に入るとか、やばすぎる。
土下座する勢いで頭を下げた俺に、聞こえてきたのはよく知った声だった。
「大晴くんおはよー！」
「へ？」
「どしたん？」
椅子に座ったままこっちを向いたショートカットの女の子が、記憶の中の顔と少しずつ馴染んでいく。
思わず目の前まで飛んでいったら「元気すぎて怖いねんけど」と笑われた。
カバンを置くのも忘れて、蛍光灯の下でキラキラ光る色素の薄い髪をガン見する。
「おーい。」
「はっ！」
「リアクション、漫画みたいやな。」
「Aや！」
「Aですが？！」
「一瞬、部屋まちがえたんか思ってめっちゃ焦ったわ！」
「んははっ！バッサリ切ったからねー。」
人生初のブリーチを2発かまして染め上げたというミルクティベージュの髪を、Aはニコニコしながらつまんで見せた。
Aって明るい髪色も似合うんやな。
見慣れてくると、はじめっからこの色やったんかな、て思えるくらいや。
しげしげ眺めていたら、心なしかAのニコニコが減った気がした。
「だー！やっぱ変？」
「うぇえ？」
「誠也くんに、暗い色やと高校生みたいて言われたから、思い切って染めてんけど…やっぱ戻した方がええかなぁ。」
「いやいや！戻さんでええよ！めっちゃ似合ってんのに！」
「…さっき絶句してたやん。」
「見とれてたんやん！！！」
あ、めっちゃでかい声出た。
Aは猫みたいに目をまん丸にして、固まってしまった。
「ごめん！とにかく似合ってるから！めっちゃ良いから！自信持っといて。」
慌てて謝ったら、Aは肩の力が抜けたみたいで、ゆるゆると机に突っ伏した。
うつむいた頭の下から「よかった〜」と安堵の声が聞こえる。
「皆に見せるん、地味に緊張しててんなー。」
あれ？と。
その言い方やったらもしかして、と思った。
「まだ皆に見せてへんの？」
髪型を相談した誠也くんでも、絶対的相方のこじけんでもなく、
「うん。大晴くんが初めて。」
俺が一番だ、という事実に浮かれる。
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作者名：三十谷みそ | 作成日時：2021年12月21日 21時
