自己愛、32 ページ45
沈黙と冷たい空気が教室を駆け巡る。柳はまさか俺がいるとは思わなかったのか、心なしか目を泳がせている気がする。気まずいのはこっちだって一緒だっつーのに、そう悪態をついた時、5分前のチャイムが何とも言えない雰囲気だった俺達の沈黙を裂いた。……先に口を開いたのは、柳だ。
「……数学の先生が体調不良で休みだから、一時限目は理科室で実験……ってことになった」
柳の声は、意外と普通だった。この前とは別人みたいだ。まるで悪意がそのまま消えてしまったみたいに。何も答えられないまま、こいつ一体何があったんだ……と思案の波に溺れそうになったが、急に柳が思い出したように自分の机に歩き出し、そういえば授業前だったと思い出す。
運が良いのか先生の良心なのかは知らないが、今日は元々理科のある日だったから教科書とノートは鞄に入ってある。筆箱も引っ張り出し、自分の机に鞄を乱暴に放った。ちらりと柳の方を盗み見てみると、手にはノートが握られている。……忘れ物を取りに来たのか。優等生でも、やっぱり忘れたりはするんだな。
……時間はもう3分くらいしかない。多分走らないと間に合わないだろう。廊下は走るなとよく言うけど、正直そんなものいちいち守ってる暇なんてないよなぁ、なんて思っていたら。
「走れるか」
――まさかいきなりそんな気遣いみたいな言葉をかけられるなんて思っているはずがなく、思わず二度見すると、そんなに変な顔をしていたのか一瞬口角を上げられた。
……気のせいかもしれない。けど、何故だろう。やっぱり、こいつ、何かあった。俺に対する態度が普通になったと言うのだろうか、……とにかく、何かくすぐったくて気持ち悪い、ような。
……でも、悪い気はしない。あんな目で見られるよりは、こっちの方がずっといい。
「走れる」
お互いがニヤリと笑い合い、ほぼ同時に教室を飛び出した。
案の定と言ったら悪いだろうけど、柳は俺より後ろを走る。それがちょっと優越感を煽って、思わず笑い声を上げる。
「――錦織」
不意に呼ばれた事に驚いて、言葉を返すことができなかった。
柳は少しだけ間をおいて、ゆっくりと、その言葉を口にした。
「ごめん 色々と、悪かった」
吹っ切れたようなその声に、もうあの時の悪意は含まれてはいない。そう思った瞬間、布団の中で悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しくなる。
途中で他の先生に見つかって怒鳴られたけど、俺達の足は止まることなく理科室に向かっていた。
(男子中学生)
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コショウ(プロフ) - 佐仲えなさん» 実は話数がギリギリの状態で、書かないまま終わってしまう話がいくつかあるのですが、そう言っていただいたことがあまりにも嬉しくて（私自身もやっぱり書きたいので笑）今対処法を考えているところなんです。コメント本当に有難うございます、頑張ります！ (2017年2月20日 14時) (
レス) id: 853a3814c9 (このIDを非表示/違反報告)
佐仲えな(プロフ) - すごく面白いです!!苗代ちゃんと錦織くんが今後どうなっていくのか、お父さんの話も含めて楽しみにしています!!錦織くんも好きですが、柳くん好きです笑笑更新頑張ってください!! (2017年2月19日 20時) (携帯から) (レス) id: 42a52683ca (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - かさくらさん» コメント有難うございます、そんなに初期の頃から読んでいただいてとても嬉しいです。ゆっくりにはなってしまうと思いますが、これからも頑張っていきたいと思います！ (2015年7月2日 0時) (レス) id: bcc65b8e5f (このIDを非表示/違反報告)
かさくら(プロフ) - 13年からずっと読んでました……また更新されて嬉しいです! すごく面白いのでまたお目にかかれるのが嬉しいですが、無理なさらずどうかご自愛ください。 (2015年6月30日 23時) (レス) id: d71098d539 (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - メーア＝シュネー＠露領＃日帝受け推奨委員会さん» コメント有り難うございます、そう言っていただけて嬉しいです。励みにさせていただきます！ (2015年6月26日 14時) (レス) id: 65f917b18d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：コショウ | 作成日時：2013年10月23日 17時
