自己愛者と自分嫌い【名前変換オリジナル】

自分嫌い、28 ページ39

*

「……保健室……行ってきます……」

そう先生に告げ、今にも倒れてしまうんじゃないかと心配するほど錦織君の足取りは重いもので、思わず先生が、気を付けろよと心配の言葉をかけていた。
彼に想いを寄せている――と言うより、彼の容姿だけ見て、それを好意だと言い張っている一部の女の子たちは皆、遠慮なんてせずに大声で錦織君の体調について話し出す。

「ニシ君大丈夫かなぁ」「心配だねぇ」

そんな彼女たちに先生が一喝すると、文句を言いながらも渋々静かになる。
いつまで経ってもそんな彼女たちの思考は理解できそうにない。

先生は頬を掻いて、またすぐに黒板に文字を書き始めた。

……芯と紙がこすれ合う音と、誰かのひそひそ話を聞いていると、錦織君と柳君に告げられた想いがじわじわと蘇ってくる。

彼等は私を好きだと言った。言って、くれた。

恋心というものに良いイメージは生きてきた中で持ったことはない。
心臓がドキドキして苦しい、その人の事しか考えられなくなる、会いたい、触れたい、抱きしめたい……なんて感情を、解りたくないと思い続けながら生きる私の事を好きだと言う男性なんていないのだろうと半ば諦めていた。

それがまさか崩されることになるなんて思うわけがない。しかも二人の男の子に、だ。
自分でもわからないうちに、異性に魔法をかけることを覚えたんじゃなかろうか。
例えば、可愛らしい怪物RPGのハートエフェクトが飛び性別の違う相手を虜にする技のように。


……でも、錦織君に好きだと言われた時、少しだけ嬉しかった気がするのは何故だろう。


*

錦織君が再び顔を出したのは、六時間目の授業が終わる頃。
扉を開けた錦織君の顔色はさっき教室を出て行った時より酷くなっていて、思わず息を飲む。
彼に何があったと言うんだろう。

一部の女の子たちが、授業を投げ出して錦織君に集り、好感度を上げるためだけの偽者の心配を突きつける。今の彼には不快でしかないだろうに。

「いい加減にしろお前等!!」

我慢の限界を超えた先生が歩み寄り女の子たちを叱って、錦織君の肩に優しく手を添える。

「大丈夫か?」

後ろで騒ぎ出す女の子たちの声に顔を顰めながらも、錦織君は先生の言葉に静かに頷く。
先生の優しい声を聞いたからなのか、それとも彼女たちから解放されたからなのか。教室に入って来た時よりはホッとしているように見えた。
そんな彼に、安堵する自分がいたことに気付かないまま、六時間目終了のチャイムが鳴り響いた。

*

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