自己愛、24 ページ34
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……苗代さんが顔を合わせてくれないまま、部活の時間帯が訪れた。
やっぱり脈絡もなくいきなり好きです、なんて言うのは拙かったのだろうか。でもそれ以外に何を言えと言うんだ。好きなのははっきりとした事実であって決して嘘じゃない、だけど……彼女は「からかっているのか」と言っていた。もしかしたら返事も聞かぬまま俺の恋は終わってしまうのか?……せめて断ってほしいな、なんて どうしようもない期待を寄せてしまう。
前方を歩く先輩達が、一人の男子生徒を避ける。よく見ればいつもテストでいい点を取っているクラスメイトだという事に気づくと同時に、相手も俺に気づいたらしい。すれ違う際、眉間に皺が寄ったところを見る限りかなり嫌われているんだろう。そんな事、どうでもいいが。
「ちょっ、時間やばくねぇ!?」「うわっマジでやばい。おいニシ!急ぐぞ!」
女子達から呼ばれると不快に感じるそのあだ名は、先輩達が口にすると心地よいものだと今更ながら思った。
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「な、苗代さん?」
部活も終わって家路についていると、私服の苗代さんと鉢合わせした――なんてどんな偶然だ、俺の運最近仕事しすぎではないか?返事待ちの想い人と顔を合わせるだけじゃなく私服まで見れるなんて……心臓がもたない。
「錦織君……」
彼女は少し戸惑ったような声で、でもしっかりこちらを見たまま俺の名前を口にする。
その瞳には小さな決意が揺らいでいるようにも見えた。しっかり捕まえておかないと、すぐ消えてしまいそうな――とても小さなものに感じられる。
彼女は今何を思って俺の名前を呼んでいるんだろう。
一瞬顔を俯かせて、苗代さんはまた顔を上げる。
可愛いけれど、泣きそうな笑顔を浮かべて、彼女は確かにこう告げた。
「ごめんなさい。でも、ありがとう」
……その言葉の意味は聞かなくてもわかってしまう。貴方の気持ちには応えられない、という謝罪に――多分、好きになってくれてありがとうという、感謝。
彼女はとてつもなく優しい。だからこそ惹かれた。彼女は断り方まで優しい、一人の女の子に過ぎない。他の人に恋をしようと思えば出来るのだろう。でも少なくとも今は無理だと思った。彼女以外の異性を、好きになれる何て到底思えなかった。
だって、こんなにも苦しくて愛おしい。
「……そっか。ごめん、いきなりあんな事言って……」
声が小さくなる。止まらない胸の痛みがじわじわと頭の中まで浸食してくるようなものを感じた。
(心が泣いた日)
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コショウ(プロフ) - 佐仲えなさん» 実は話数がギリギリの状態で、書かないまま終わってしまう話がいくつかあるのですが、そう言っていただいたことがあまりにも嬉しくて(私自身もやっぱり書きたいので笑)今対処法を考えているところなんです。コメント本当に有難うございます、頑張ります! (2017年2月20日 14時) (レス) id: 853a3814c9 (このIDを非表示/違反報告)
佐仲えな(プロフ) - すごく面白いです!!苗代ちゃんと錦織くんが今後どうなっていくのか、お父さんの話も含めて楽しみにしています!!錦織くんも好きですが、柳くん好きです笑笑更新頑張ってください!! (2017年2月19日 20時) (携帯から) (レス) id: 42a52683ca (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - かさくらさん» コメント有難うございます、そんなに初期の頃から読んでいただいてとても嬉しいです。ゆっくりにはなってしまうと思いますが、これからも頑張っていきたいと思います! (2015年7月2日 0時) (レス) id: bcc65b8e5f (このIDを非表示/違反報告)
かさくら(プロフ) - 13年からずっと読んでました……また更新されて嬉しいです! すごく面白いのでまたお目にかかれるのが嬉しいですが、無理なさらずどうかご自愛ください。 (2015年6月30日 23時) (レス) id: d71098d539 (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - メーア=シュネー@露領#日帝受け推奨委員会さん» コメント有り難うございます、そう言っていただけて嬉しいです。励みにさせていただきます! (2015年6月26日 14時) (レス) id: 65f917b18d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:コショウ | 作成日時:2013年10月23日 17時