自分嫌い、22 ページ31
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……まず最初に感じたのは安心する柔らかさ。次に嗅ぎ慣れた匂い。
あの後、自分の部屋の押し入れに入り込んで、朝片付けておいた布団に顔を埋めて馬鹿みたいに泣きじゃくりそのまま眠ってしまったんだ――……。座りながら眠気に身を任せたせいなのか主に首が痛む。後で湿布でも貼ろう。
……不意にあの二人の顔と声が浮かんだ。彼らは確かに私を好きだと言った。
誰かに想いを伝えられたことなんてない。ましてや恋情なんてもってのほかだ。どう返していいか解らないし、何より……怖いのだ。
もしかしたら罰ゲームか何かで誰かに命令され仕方なくだったのかもしれない。二人でタッグを組んで私を困らせようとしているのかもしれない。そんな考えしか浮かんでこなくて、錦織君へぐちゃぐちゃな感情をぶつけてしまった私は最低だと言われても仕方ない人間なのだろう。
二人の想いに応えられる自信はなかった。私はどちらの事もよく知らないし知ろうとも思わない。嫌いなわけではないが好きなわけでもない。何処にでもいるクラスメイト。そんな関係止まりでこれからを歩んでいきたかった。だけど二人はそれを許してくれなかった。
どうして放っておいてくれなかったんだろう。
――どうして私は好きになられてしまったんだろう。
「っ……最低」
こんな事しか考えれない自分が嫌で仕方がない。彼らは何も悪くない。悪いのは腑に落とせないでいる私だ。勝手に混乱して、勝手に自分を責めて。こんな事をしたってどうにもならないのに。二人の想いを受け止めた上で状況を進めないといけないのに。
「どうすれば、いいの……」
……錦織君には風邪の件もある。それがまた私の思いを複雑にさせる。
何か、何かいい方法はないのだろうか――……。
「何がだ?」
……部屋の扉に、いつの間にか帰ってきていた兄が、背中を預けていた。
「……おかえり……」
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「――私、どうすればいいんだろう」
告白されたことを暴露すると明らかに眉間に皺を寄せた兄を見たときはどうしようかと思ったが、結局何も言わずに私の話を聞いてくれた。否、眉間の皺は未だに寄せられているけれど。
兄は呆れたように溜息を吐いた。
そして、まっすぐ私を見て、こう言った。
「素直に伝えればいいだろう。それだけの話だ」
――兄のその言葉は、私の背中を押すのには十分なものだった。
もうすぐ、弟が公園から、母が仕事から帰ってくる頃だ。
暗い顔で出迎えるわけには、いかない。
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コショウ(プロフ) - 佐仲えなさん» 実は話数がギリギリの状態で、書かないまま終わってしまう話がいくつかあるのですが、そう言っていただいたことがあまりにも嬉しくて(私自身もやっぱり書きたいので笑)今対処法を考えているところなんです。コメント本当に有難うございます、頑張ります! (2017年2月20日 14時) (レス) id: 853a3814c9 (このIDを非表示/違反報告)
佐仲えな(プロフ) - すごく面白いです!!苗代ちゃんと錦織くんが今後どうなっていくのか、お父さんの話も含めて楽しみにしています!!錦織くんも好きですが、柳くん好きです笑笑更新頑張ってください!! (2017年2月19日 20時) (携帯から) (レス) id: 42a52683ca (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - かさくらさん» コメント有難うございます、そんなに初期の頃から読んでいただいてとても嬉しいです。ゆっくりにはなってしまうと思いますが、これからも頑張っていきたいと思います! (2015年7月2日 0時) (レス) id: bcc65b8e5f (このIDを非表示/違反報告)
かさくら(プロフ) - 13年からずっと読んでました……また更新されて嬉しいです! すごく面白いのでまたお目にかかれるのが嬉しいですが、無理なさらずどうかご自愛ください。 (2015年6月30日 23時) (レス) id: d71098d539 (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - メーア=シュネー@露領#日帝受け推奨委員会さん» コメント有り難うございます、そう言っていただけて嬉しいです。励みにさせていただきます! (2015年6月26日 14時) (レス) id: 65f917b18d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:コショウ | 作成日時:2013年10月23日 17時