自己愛、22 ページ30
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「ちょっと、清ッ!?」
後ろから姉の呼び止める声が聞こえるが、今の俺に振り向いてる余地なんてちっともなかった。
どうしてあんな事になってしまったんだ。混乱と少しの後悔を抱えたまま今にも溢れだしそうな涙を必死に堪えながら自分の部屋のドアを感情に任せて勢いよく閉めた。
「くそ、っ!」
いつもは安心する自室の匂いは、今は酷く気持ち悪かった。ドアに凭れかかり髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。苗代さんの言葉と哀しそうな顔が頭から離れない。まさか、他に誰かが彼女を――……?そう考えれば辻褄が合う。
――……こんな事になるなんて考えもしなかったし、解決方法なんて知るわけがない。
どうすればいいんだろう。でもこれだけはわかる。もう元には、絶対に戻れない。
ああ、いつもの俺はどこに行ったんだ、情けない。
そんな思いが零れ落ちた涙にじんわりと滲んでいた。
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「何があったの」「何でもない」「何でもないィ〜?」
気分をどうにか落ち着かせ、今頃リビングで無視されたことに苛々してるであろう姉に謝りに行こうとドアを開けるとそこには般若が立っていた。いきなり投げかけられた質問に曖昧な答えを返すとますます目が吊り上った。生きてきた中でここまで怖い姉を見たことがあっただろうか。
「んなわけないでしょ!じゃあ何でここが赤いの!」「うわっ」
目の下をぐりぐりと触られて改めて思った。やはり血を分けたこの人に隠し事なんて通用しないんだろう、特に恋愛に関することは。誰だよ、女という生き物を恋愛話好きにしたのは。一発殴らせてくれ。……勿論、全ての女が問答無用で恋愛話に喰いつくわけじゃないのも知っているけど。
多分、苗代さんもそういう手の話に喰いつくタイプじゃないんだろうな。
「……もしかして苗代ちゃん?」
……ああ、本当に恋愛が関わってくるとどうしてこんなに頭が冴えるんだ、俺の姉は。
思いっきり眉を動かしてしまった時点でもう言い訳は通用しないのは目に見えている。なら、することは一つしかない。
「……そうだよ」
こういう時は黙って肯定するに限ると、俺は思う。
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……苗代さんに“ああ”言った後の事だった。返事をその場で聞くつもりは最初からなかったし、強要もしたくなかった。そう思って顔を上げた。
揺れる瞳を見た瞬間、痛みが胸を襲った。
「っ二人とも私をからかってるんでしょう……!?」
そう言い残して彼女は走り去っていった。
――そして冒頭に至る。
(二人が、一人に)
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コショウ(プロフ) - 佐仲えなさん» 実は話数がギリギリの状態で、書かないまま終わってしまう話がいくつかあるのですが、そう言っていただいたことがあまりにも嬉しくて(私自身もやっぱり書きたいので笑)今対処法を考えているところなんです。コメント本当に有難うございます、頑張ります! (2017年2月20日 14時) (レス) id: 853a3814c9 (このIDを非表示/違反報告)
佐仲えな(プロフ) - すごく面白いです!!苗代ちゃんと錦織くんが今後どうなっていくのか、お父さんの話も含めて楽しみにしています!!錦織くんも好きですが、柳くん好きです笑笑更新頑張ってください!! (2017年2月19日 20時) (携帯から) (レス) id: 42a52683ca (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - かさくらさん» コメント有難うございます、そんなに初期の頃から読んでいただいてとても嬉しいです。ゆっくりにはなってしまうと思いますが、これからも頑張っていきたいと思います! (2015年7月2日 0時) (レス) id: bcc65b8e5f (このIDを非表示/違反報告)
かさくら(プロフ) - 13年からずっと読んでました……また更新されて嬉しいです! すごく面白いのでまたお目にかかれるのが嬉しいですが、無理なさらずどうかご自愛ください。 (2015年6月30日 23時) (レス) id: d71098d539 (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - メーア=シュネー@露領#日帝受け推奨委員会さん» コメント有り難うございます、そう言っていただけて嬉しいです。励みにさせていただきます! (2015年6月26日 14時) (レス) id: 65f917b18d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:コショウ | 作成日時:2013年10月23日 17時