××―18.5 ページ25
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清は気づかなかった。
自分と自分が信頼する者だけに愛を注ぐその姿が酷く滑稽に見えることを知らなかった。清はまだ無知で無垢で、純粋なだけだった。そんな彼を見つめる瞳の中に激しい憎悪を孕んでいるクラスメイトがいることを知ろうともしなかった。
とある一人のクラスメイトは自分に絶対的な自信を持っていた。家族から強要されて通い始めた塾の講師のおかげで成績が上がり、今まで下位だったテスト結果が少しずつランクアップし始めているのを見て今まで感じたことのない優越感に駆られた。嫌々だったはずの塾通いに熱を示すようになり、今じゃテストは毎回上位の真面目な優等生に彼はなり上がっていた。
学年が上がり同じクラスになった清に、当初は容姿端麗で運動も出来る普通にカッコいい奴だと自分の中で好印象を抱いていた。時折言葉を交わすこともあったが友好関係にまでは発展しなかった。真面目で優等生な彼と運動が好きで公言すらしないがナルシストである清は相性が合わなかったのだろう。
何処にでもある普通の、ただのクラスメイト。そんな関係だったはずだったのだ。
*
近頃、近くの席にいる清がやたらと隣の席の彼女を意識するようになった。
聡い彼は清の抱く恋慕を、本人より早く見抜いた。
「錦織清は苗代菜月が好き」
その事実を見据えた時、彼の胸を襲ったのは痛み。
彼もまた苗代菜月と言う女の子に惹かれていた一人だったのだ。
偏りはあるが女子の中でも優秀で人当たりもいい彼女に、知らず知らずのうちに惹かれていた彼は自身の気持ちをいち早く受け入れ、すくすくと育てていた。いつか彼女に振り向いてほしい。
そんな幻想が彼の中には存在した。
しかしそんな彼の事など知る事か、そう言いたげに苗代菜月との距離を少しずつだが、明らかに縮めていっている清を目にした瞬間、芽生えたのは彼に対する憎しみと嫉妬。偶然に過ぎないが彼女と2年連続で同じクラスになり、先に彼女を好きになったのは自分だと言うのに。
成績は自分より遥か下に位置し、見れば見るほど苛立ちを隠せないほど整った顔立ち。
いつの間にか彼の中で、清は完全に嫌悪の対象となっていた。
ずっと前、彼女が自分に向けてくれた不器用な笑顔を二度と見れなくなってしまう。
あの、男のせいで。
嫉妬と憎悪、恐怖。そして微かな羨望。
複雑な感情を清に抱きながらも、彼は自身の未来のために必死に鉛筆を動かすしかなかった。
(黒い感情に飲まれゆく心に、名前などいらない)
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コショウ(プロフ) - 佐仲えなさん» 実は話数がギリギリの状態で、書かないまま終わってしまう話がいくつかあるのですが、そう言っていただいたことがあまりにも嬉しくて(私自身もやっぱり書きたいので笑)今対処法を考えているところなんです。コメント本当に有難うございます、頑張ります! (2017年2月20日 14時) (レス) id: 853a3814c9 (このIDを非表示/違反報告)
佐仲えな(プロフ) - すごく面白いです!!苗代ちゃんと錦織くんが今後どうなっていくのか、お父さんの話も含めて楽しみにしています!!錦織くんも好きですが、柳くん好きです笑笑更新頑張ってください!! (2017年2月19日 20時) (携帯から) (レス) id: 42a52683ca (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - かさくらさん» コメント有難うございます、そんなに初期の頃から読んでいただいてとても嬉しいです。ゆっくりにはなってしまうと思いますが、これからも頑張っていきたいと思います! (2015年7月2日 0時) (レス) id: bcc65b8e5f (このIDを非表示/違反報告)
かさくら(プロフ) - 13年からずっと読んでました……また更新されて嬉しいです! すごく面白いのでまたお目にかかれるのが嬉しいですが、無理なさらずどうかご自愛ください。 (2015年6月30日 23時) (レス) id: d71098d539 (このIDを非表示/違反報告)
コショウ(プロフ) - メーア=シュネー@露領#日帝受け推奨委員会さん» コメント有り難うございます、そう言っていただけて嬉しいです。励みにさせていただきます! (2015年6月26日 14時) (レス) id: 65f917b18d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:コショウ | 作成日時:2013年10月23日 17時