みゅう。２ 【MIU 404】

MIU : 052 ページ3

.




『え？伊吹さんもですか？』

伊吹「うん。あ、でも花井ちゃんからどーぞ」

『え。いやいや、伊吹さんから…』

伊吹「いやいやいや、花井ちゃんから…」



伊吹さんから…

花井ちゃんから…

伊吹さんから…

花井ちゃんから……


こんなどーぞどーぞのやり合いが5、6回続いた。

まるで初々しいカップルだ。

そしてどちらからともなくお互いに「ぷっ」と吹き出した。



私たちはまだ、カップルなんかじゃない。


……まだ？

まだ。



伊吹「あーもぉ…こう言うのはレディーファーストでしょ！ほら花井ちゃんから言って！じゃなきゃ俺は言わないっ！」



いつの間にか元に戻った声のトーン。


こういう時にレディーファーストを使うのは正解なのかはちょっとよく分かんない。

けど、頑なに私から言わせたい伊吹さんが勝手にカウントダウンを始めてくるから「じゃあ私から」と、仕方なく息を吸った。



『今日……なんであそこに来たんですか？』

伊吹「ん？あそこ？」

『夕方。私がケイくんたちと話してる時です』

伊吹「あぁ〜……あれね」



話の意図を理解したのか、伊吹さんは「んー」と考える素振りをしていた。ように思う。



伊吹「気になる？気になっちゃうの？それ」

『気になりますよ。急に来てレンくんと喧嘩しだすし…』



あの場にいた私には、伊吹さんがなんであんなにレンくんを威嚇していたのかなんて、皆目検討がつかなかった。

いや、もしかしてレンくんが何か警察のお世話になるような事をしたのかと内心焦ってもいた。

けど。レンくんはそんな事をする子じゃないと思う。

あんな弟思いのお兄さんなんて中々見ないから。

って思うけど、それとは裏腹にレンくんの顔がいつも怪我だらけなのは正直気になっていた。


伊吹さんからの返答はない。


代わりに聞こえてくるのは相変わらず誰かのいびき。



もしかして伊吹さん……



『あの。もしかして寝ちゃいました？』

伊吹「起きてまーす」

『なんだ。起きてるなら返事して下さいよ』

伊吹「ごめんごめん。なんて言おうかなぁって考えてた」

『そんな言葉を選ぶようなものなんですか？』

伊吹「……うん。ちょっとね」



伊吹さんの言葉はいつもどこでもストレートなのにこんな答えを出し渋るなんて珍しい。


私はもう一度、伊吹さんの名前を呼んだ。



伊吹「ごめん花井ちゃん。やっぱ答える前に俺の聞きたい事、聞いてもいい？」


.

MIU : 053→←MIU : 051

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す