參噺 ページ5
「蟒、野掛けに行こう」
「またなんだって急に……」
「表でこれを見つけてな」
手平に乗っているのは五花弁。
「花弁が舞ってさぞ綺麗だぞ」
「……分かった」
――――――――――
―――――
「相変わらず蟒の料理は美味い！」
「……櫻を観に来たのではなかったのか」
「なんだ機嫌が悪いな？」
「ハァ……次はもっと早くに言ってくれ」
男の勝手に振り回され、準備は愚か、何も整ってはおらず、それでも小一時間で完了させた。
少しくらい剥れても罰は当たらないだろう。
「御前は何時も急すぎる」
「そうか？―――そら、蟒も食べてみろ」
「いらん」
差し出された玉子焼きを食べる気にはなれず、丁度眼下に舞い落ちてきた小さなその花弁を摘み上げる。
仄かに漂う甘い香りが鼻腔を擽る。
「来年も共に来よう」
「断る」
「だが、先程の“次は”ということはそう言うことだろう？」
「っ！！」
ポロリとこぼした何気ない一言を覚えられていたとは思わず、恥ずかしさに外方を向き自ら拵えた玉子焼を無言で頬張る。
「―――やれやれ」
「何を―――！」
「蟒、悪かった」
御前は誠に狡い。
名を口遊み、頭を撫ぜれば容易く機嫌を良くするとでも思っているのか。
「俺は蟒にこの櫻を観て、喜んでほしかっただけさ」
しかし、伏せる瞳では実際そう見えてしまうだろう。
耐え性のない自身がこれ程憎いと思ったことはない。
「はは、蟒は実に愛らしいな」
「〜っ五月蠅い」
撫ぜられた頭が熱を持ったように熱く感じた。
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