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「A!と、すぎるさん?」
耳触りのいい声に振り向くと、Tシャツに短パンという出で立ちのハッチが、私たちを不思議そうに見ていた。
「おお、ハッチ。どしたん」
「ちょっと走りに行こうかと。そっちこそ何してるんですか?」
「Aとコンビニ行ってた」
「へえ、そうなんですか」
「うん。じゃ、おれ自転車置いてくるし、A預けるわ」
すぎるくんはそっと私の背中を押した。それがまるで本当に突き放されたように思えて、私はよろよろとハッチのもとへ向かい、縋るように彼の腕を掴む。
後ろで、すぎるくんの自転車が遠ざかっていくのが聞こえて、私はその場にしゃがみ込んだ。
「え、ちょっと、どうしたの」
頭上からハッチの戸惑う声が降り注ぐ。ハッチは私の肩を抱くようにして座り、私の顔を覗き込んだ。
「な、泣いてる?」
「泣いてない……」
「なに?すぎるさんと喧嘩でもした?」
ハッチの問いに、私は小さく首を振る。けんかなんかじゃない。すぎるくんの言葉に、私が勝手に傷ついているだけ。
ハッチは黙りこくる私をなぐさめるように、ぽんぽんと背中をたたいた。
「……ハッチの手、落ち着く」
「それはよかった」
ハッチは優しく微笑む。その昔から変わらない笑顔に、安心してしまう自分がいやだった。
「私って子どもだよね」
「んー、まあ、高校生はまだ子どもだよね。親の庇護下にあるわけだし」
「……そういうことじゃなくて」
ハッチは首を傾げた。しっかり者の彼からときどき飛び出す天然発言には、つい笑ってしまう。
ぷっと噴き出すと、ハッチは「やっと笑った」とうれしそうに口元をゆるめた。
「やさしいね。昔から、変わらず」
「そう?」
「うん。……あのさ、ハッチは変わらないものってあると思う?」
私の問いかけに、ハッチはきょとんとした顔で「変わらないもの?」と繰り返す。
「そう、変わらないもの」
「考えたことなかったけど……変わらないもの、ねぇ……」
「私はね、ずっと5人でいることが変わらないものだと思ってたの」
ハッチがいて、蘭たんがいて、すぎるくんがいて、しゅーさんがいて。そんな日々が、いつしか私の中の当たり前になっていた。
「でも、違うんだなって」
「……もしかして、すぎるさんに聞いた?卒業後のこと」
「うん。知ってたんだ」
「ん、まあ」
ハッチはあいまいに答えた。それだけで、彼はたぶん、もっとずっと前からこのことを聞いていたんだろうなと思った。
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みかん - 好きです。ずっと応援しております。 (2020年10月31日 21時) (レス) id: e8dff2febb (このIDを非表示/違反報告)
いちご(プロフ) - 更新お疲れ様です!毎話とても素敵です( ; ; )これからも応援させて頂きます(*´-`) (2020年7月10日 18時) (レス) id: 953a850615 (このIDを非表示/違反報告)
ささき(プロフ) - のあさん» コメントありがとうございます!そんなふうに言っていただけて光栄です。遅筆ですみません、がんばります! (2020年7月8日 23時) (レス) id: a1167b4d39 (このIDを非表示/違反報告)
のあ(プロフ) - 本当に生きがいです、、頑張ってください( ; ; ) (2020年6月26日 19時) (レス) id: cc2606b39f (このIDを非表示/違反報告)
ささき(プロフ) - nullさん» ひぇ〜〜〜ありがとうございます…私も皆さまからの評価やコメントが生きがいに繋がってます、ありがとうございます…! (2020年6月7日 19時) (レス) id: a1167b4d39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ささき | 作成日時:2020年5月15日 15時