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すぎるくんはベンチの私たちに気づき、ぶんぶんと大きく手を振った。
「ごめん!お待たせ!」
「う、ううん。遅かったね」
「あいつらがさー、全然進まへんねん」
すぎるくんは私たちのもとに駆け寄ると、お化け屋敷の出口で力尽き、うなだれているハッチと蘭たんを親指で差した。ふたりの足取りはゾンビのようにフラフラだ。
「大変だったね……」
「ふたりはどうやったん?」
「え!あ、わ、私こわくて叫びまくったよ」
「おれもまあこわかったですね」
先ほどの動揺を引きずっている私とは対照的に、しゅーさんは落ち着いた顔をしていた。まるで何もなかったかのような、そんな顔だ。さっきのは何だったんだろうとその横顔を見つめるも、答えが返ってくることはなかった。
「……A?」
すぎるくんが低く私の名前を呼んだ。はっとして、「なあに」とすぎるくんを見上げる。彼は何か言いたげな目で私としゅーさんを交互に見ていたが、「ああ、いや」と虫を振り払うときのようにぶんぶんと首をふった。
「次はジェットコースター乗らへん?」
「あ、うん!いいね!乗りたい!」
「しゅーさんは?」
「おれは……ハッチさんたちと休んでますね」
しゅーさんはそう言って立ち上がると、ハッチと蘭たんの方へ歩いて行ってしまった。私はなんとなく胸が痛むのを感じながら、その背中を見送った。
「……まあ、ええか。ふたりで行こや」
「うん……そうだね、楽しみ」
本心からそう思い、笑ったつもりだったが、私の頬はぴくぴくと微妙に痙攣していた。
すぎるくんには気づかれないようにと、彼の背後にまわって「はやく行こうよ」と背中を押した。
「A、なんかさっきから変やで」
ジェットコースターはやや混んでいて、乗り場まで20分待ちだと言われた。私たちは迷わず列に並び、世間話をしながら列が進むのを待っていた。その最中である。
すぎるくんは探るような目で私をじっと見つめた。
「別に、いつも通りだよ」
私はとっさにそう答えたが、さっきのしゅーさんとのやりとりが思い出されて、落ち着かない気分なのは事実だった。すぎるくんの言葉を聞き逃して、あいまいな返事をすることが何度かあった。
「嘘つけ。ずっと見てるからわかんねん。なんかあったんやろ?しゅーさんと」
「えっと、それは……」
いきなり図星を指されて、私はうろたえた。どう答えるべきかわからず、押し黙る。しかし、ここでの沈黙は、すぎるくんの言葉を肯定していることにほかならなかった。
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みかん - 好きです。ずっと応援しております。 (2020年10月31日 21時) (レス) id: e8dff2febb (このIDを非表示/違反報告)
いちご(プロフ) - 更新お疲れ様です!毎話とても素敵です( ; ; )これからも応援させて頂きます(*´-`) (2020年7月10日 18時) (レス) id: 953a850615 (このIDを非表示/違反報告)
ささき(プロフ) - のあさん» コメントありがとうございます!そんなふうに言っていただけて光栄です。遅筆ですみません、がんばります! (2020年7月8日 23時) (レス) id: a1167b4d39 (このIDを非表示/違反報告)
のあ(プロフ) - 本当に生きがいです、、頑張ってください( ; ; ) (2020年6月26日 19時) (レス) id: cc2606b39f (このIDを非表示/違反報告)
ささき(プロフ) - nullさん» ひぇ〜〜〜ありがとうございます…私も皆さまからの評価やコメントが生きがいに繋がってます、ありがとうございます…! (2020年6月7日 19時) (レス) id: a1167b4d39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ささき | 作成日時:2020年5月15日 15時