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「お前が言ったように、今日は婚姻届を出しに行った。しかし寸前のところで遮られた、というか破り捨てられた」
「えぇ!? ど、どうして」
「嘘つきとは結婚できないと言われた」
____誰かを想い続ける貴方となら、一緒にいられると思っていました。でも、すぐに諦める貴方のことは嫌いです。自分の気持ちに嘘をつく人は、嫌いです。
冨岡先生の婚約者の方はきっと、"私"という存在に気づいていたのだろう。
本当は一緒にいたいけれど、理由があって離れなければならない私たちの存在に気づいていて、結婚するその日までずっと待っていたのだ。
先生が、自分で答えを見つけられるように。
「だから俺はお前を迎えに来た。情けなく元婚約者に背中を押されることになってしまったが、自分の意思でここにいる」
向かい合う私の冷えた手に、先生の暖かな手が重ねられる。
大きなその手は私の手をすっぽり覆えるくらい逞しいのに、不安げに震えているようにも見えた。
「何にせよ俺のわがままで2人の女性を傷つけたことに変わりない。だからこの先はお前が決めていい。お前が頷かなかったら、ちゃんと忘れるから」
青い瞳が、真っ直ぐ見つめて私を離さない。。
「A……今世でも、俺と共に生き抜いてはくれないか?」
その優しい声を聞いた瞬間、せき止めていた何かが切れたかのように涙がこぼれおちて来た。
冷えた冷気に増えて凍ってしまいそうなほど、涙が溢れて止まらなかった。
相変わらず私の泣き顔に弱いらしい貴方は、おどおどと手を伸ばしたり引っ込めたりして。
「そんなのっ、当たり前じゃないですか!!
私が何年……どれだけの間、貴方を待ってたと思ってるんですか!?」
みっともなく涙を流しながら怒りを表す私に、さすがの義勇さんもびっくりしたように固まっている。
構わず私は上に乗っていた手を払い除け逆に握り返してやった。
「せっかく会えたと思ったら別の人と結婚するとか言うし」
「うん」
「やっと思い出してくれたと思ったのに……」
「うん」
「もう絶対、私のそばから離れないでよ」
ポタリと零れた涙がベンチにシミを作る。
その瞬間、ギュッと暖かい体温に抱きしめられた。
「もう絶対離さない。今度こそ、最期までお前を守るから……」
"「今度は鬼のいない平和な世界で、一緒に生きよう」"
安心しきった私は声を上げながら泣き散らかした。
義勇さんはそんな私を力強く抱きしめ、優しく頭を撫で続けてくれる。
そんな私たちを、真っ白な雪だけが見守っていた。
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中川さおり(プロフ) - このシリーズが出来たらまた読みたいです (11月19日 11時) (レス) @page47 id: 70c247066b (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 私も義勇さんが大好き過ぎるので、なかなか読むのが辛かったですが笑、こんな風に前世で繋いだからこその縁がある、というのがまた素敵で、感動しました( ; ; )次回作も首を長くしてお待ちしております!質問コーナー楽しみです!また読み直してみようと思います! (2021年9月23日 11時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 完結おめでとうございます( ; ; )このお話が立ち上がってからのファンですが、本当に物語の世界観と作者様の文章が好きで、更新待ちしている時も何度も読み返してました。更新される度に嬉しくて舞い上がってすぐ読むくらい、大好きでした泣。本当にお疲れ様でした! (2021年9月23日 11時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - 完結おめでとう…。いい話だった‥。幸せに終わった、良かった。これでお別れだな。面白かった。これからも頑張ってくれ。冨岡義勇だ。 (2021年9月23日 7時) (レス) @page47 id: 2a3c5f3e4e (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - このまま義勇さんと結婚して欲しい!夢主とどうなるか楽しみにしてます。 (2021年7月31日 8時) (レス) id: 2a3c5f3e4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももりんご | 作成日時:2021年1月27日 3時