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〇
「失礼します、宇随先生」
「胡蝶、聞いてたのか」
その質問にはニコリと笑うだけで返した。
「大人とは嫌なものですね、女子高生の恋愛に釘を刺すなんて。貴方に一体何の権利があってのことでしょうか」
優しく問いかけているつもりではあるが、ついキツい言い方になってしまうのは昔からの癖だ。
一方の宇随先生は椅子に座って絵を描く手を止めないまま私の方を見向きもしない。
____あぁ、甚だ腹が立つ。
「貴方は冨岡さんとAの最期を知っているはずですよね? よくもまぁこんな手酷いことが出来ますね」
ピタリと筆を撫でる手が止まり、先生は大きなため息を着くと筆を水の中に突っ込んだ。
苛立っている私の方が可笑しいのだと思われるほど、先生はあくまで冷静である。
「確かにAからすれば俺はド派手に酷い奴だろうよ。だが現実はどうだ? 今の冨岡は、もうあいつとは違うやつと人生を歩んでいこうって約束したんだぞ」
「それはッ」
「お前は親友想いの良い奴なんだろうよ。だがな、あいつだけが幸せでいい思いをすれば解決するのか?」
椅子から立ち上がりこちらに迫ってくる先生の顔が、影に隠れて見えない。
流石は伊達に柱をやっていた訳では無い。
Aがこの圧に負けるのも仕方がないだろう。
だけど、私は……。
口にしようとして、やめた。
こんなことをこの人にぶつけてもなんの意味もない。
言うのなら、あの人に。
グッと拳を握りしめ、私は美術室を後にした。
〇
「ただいま」
真っ暗な玄関に明かりをつけ数秒経っても、部屋から「おかえり」の声が聞こえてこない。
ここ数日習慣になっていたことが途絶え、不審に思い名前を呼びながらリビングまで行くが、どこを探してもその姿が見当たらない。
まだ帰ってきていないということは、下校途中で何かいけないことに巻き込まれたのではないか。
夏休みに入る直前に起こった出来事を思い出しながら慌ててスマホを取りだし、Aの連絡先を開いた、その時。
ローテーブルの上にピンク色のメモ用紙が置かれているのが見えた。
綺麗に揃えられた文字列は間違いなくAのものだ。
"もうここには帰りません。私のわがままに付き合わせてしまってごめんなさい。"
たったそれだけ、書かれていた。
唖然としながらテーブルを見返せば、そこには渡したはずの家の鍵が置かれていた。
「A……!!」
俺は何かの衝動に駆られたかのように雨の中部屋を飛び出した。
どうしても伝えなくてはいけないことがある。
あいつに甘えて、ずっと隠し通してきたことを……。
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中川さおり(プロフ) - このシリーズが出来たらまた読みたいです (11月19日 11時) (レス) @page47 id: 70c247066b (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 私も義勇さんが大好き過ぎるので、なかなか読むのが辛かったですが笑、こんな風に前世で繋いだからこその縁がある、というのがまた素敵で、感動しました( ; ; )次回作も首を長くしてお待ちしております!質問コーナー楽しみです!また読み直してみようと思います! (2021年9月23日 11時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 完結おめでとうございます( ; ; )このお話が立ち上がってからのファンですが、本当に物語の世界観と作者様の文章が好きで、更新待ちしている時も何度も読み返してました。更新される度に嬉しくて舞い上がってすぐ読むくらい、大好きでした泣。本当にお疲れ様でした! (2021年9月23日 11時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - 完結おめでとう…。いい話だった‥。幸せに終わった、良かった。これでお別れだな。面白かった。これからも頑張ってくれ。冨岡義勇だ。 (2021年9月23日 7時) (レス) @page47 id: 2a3c5f3e4e (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - このまま義勇さんと結婚して欲しい!夢主とどうなるか楽しみにしてます。 (2021年7月31日 8時) (レス) id: 2a3c5f3e4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももりんご | 作成日時:2021年1月27日 3時