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#23 ページ24



「A……」


苦しそうに絞り出されたその声は、確かに私の名前を綴っていた。
何故なのだろうか、さっきまで苗字で呼んでいたのに。

私が困惑している間にも、そのまま先生は車にもたれるようにして頭を抱えながらしゃがみこんでしまう。


慌てて駆け寄り正面に座り込んでその顔を覗きこむ。


____水面のように揺らぐ真っ青な瞳と目が合った。


先生の綺麗な瞳はまるで鏡のようで、惚けてる私が映し出されている。

思わず言葉を失っていると右腕を掴まれてグッと先生の方に引き寄せられ、私の重心が傾く。

成されるがままだったその時、唇にふわりとした暖かな何かが触れた。



「え……?」




それが先生からの口付けだと気づくのはそんなに時間がかからなかった。
その感覚を私は知っていたから。

数秒見つめ合って、先生はそのまま私を抱きしめた。

なんでとか、どうしてとか色んな感情が頭の中を渦巻く。
前面に先生の体温を感じながら、私は両腕をだらりと垂らしたまま明後日の方向を見ることしか出来ない。


「A……」


もう一度、今度ははっきりと耳元で囁かれ私の体はピシリと硬直した。

二度と呼んではもらえないと思っていた自分の名前。
愛おしそうに、撫でるように呼んでくれるその声が大好きだった。

しかし先生は私の名前を何度も繰り返し腕に力を込めるだけだ。


冨岡先生は、まだ完全に記憶を思い出した訳では無い。
恐らく何かが引き金になって思い出しかけているだけで、まだ記憶を呼び起こしている段階なのだ。

現に冨岡先生は頭痛を訴えるように頭を抱えていたし、苦しそうに息を吐き出すので精一杯だ。
私が記憶を思い出した頃と同じ症状。


ならば私がここで食い止めなければいけない。
絶対に冨岡先生に記憶を思い出させてはいけないのだ。

今世の彼にはもう愛すべき人がいて、これからは鬼のいない平和な世界で幸せに暮らすのだ。

それを過去の記憶を思い出すことで壊すなんて、あってはいけない。
そうやってしのぶや宇髄先生達とも約束したのだ。


でも、本当は____


「ぎゆう、さん……」


そう呼んだら、また優しく微笑んで欲しかった。

なんで私ばかりが我慢をしなくてはいけないのだろう。
義勇さんは私の恋人で、最期まで添い遂げた最愛の人だ。

それだというのに生まれ変わってまた出会えても、たった数年私が遅れて生まれてきたというだけで……どうしてこんなことになってしまったのだろう。


____私だって、義勇さんの隣で生きて死にたい。

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中川さおり(プロフ) - このシリーズが出来たらまた読みたいです (11月19日 11時) (レス) @page47 id: 70c247066b (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 私も義勇さんが大好き過ぎるので、なかなか読むのが辛かったですが笑、こんな風に前世で繋いだからこその縁がある、というのがまた素敵で、感動しました( ; ; )次回作も首を長くしてお待ちしております!質問コーナー楽しみです!また読み直してみようと思います! (2021年9月23日 11時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 完結おめでとうございます( ; ; )このお話が立ち上がってからのファンですが、本当に物語の世界観と作者様の文章が好きで、更新待ちしている時も何度も読み返してました。更新される度に嬉しくて舞い上がってすぐ読むくらい、大好きでした泣。本当にお疲れ様でした! (2021年9月23日 11時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - 完結おめでとう…。いい話だった‥。幸せに終わった、良かった。これでお別れだな。面白かった。これからも頑張ってくれ。冨岡義勇だ。 (2021年9月23日 7時) (レス) @page47 id: 2a3c5f3e4e (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - このまま義勇さんと結婚して欲しい!夢主とどうなるか楽しみにしてます。 (2021年7月31日 8時) (レス) id: 2a3c5f3e4e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ももりんご | 作成日時:2021年1月27日 3時

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