#22 ページ23
ずっと、同じ夢を繰り返している。
毎晩眠りにつく度、俺は同じ夢を見るのだ。
夢に出てくる女性は特徴的なはずなのに、目が覚めると容姿も声も、どこにいたのかも全てを忘れてしまう。
ただひとつ分かるのは、自分がその女性を想って涙を流している事だった。
こんな姿は婚約者には見せられるはずもなく、共に夜を過ごしたことは一度も無い。
ずっと断り続けていた縁談に乗ってみようと思ったのはただの気まぐれにすぎなかった。
だが、それとはまた別に少し理由がある。
3年前、赴任した学校に入学してきた1人の生徒を見た瞬間、ドクリと心臓が波打つ感覚を覚えた。
彼女は1人の生徒だ。だが他人とは思えない何かを感じた時、俺は夢の中の女性をふと思い浮かべたのだった。
もしかしたら、こいつなのかもしれない。
そんな馬鹿げた話はない。
しかし気づけばその生徒を見かける度に目で追ってしまう自分に次第に嫌悪感が生まれてきた。
相手は生徒で、自分は教師。
何かを望む前に自分から離れるべきだと思った。
俺は彼女に対して何か感情を抱く前にと、逃げるように縁談に向かったのだ。
そうして結局、その縁談で出会った女性と婚約者という関係になったわけだけれど。
未だにAと距離を保ち続ける他なく、後にも先にも発展しないただの生徒と教師。
だというのに助手席には嬉しそうに微笑むAがいて、それから目を離せない自分がいる。
時折ズキリと痛む頭を誤魔化すようにブラックのコーヒーを飲み込んだ。
〇
「じゃあ、気をつけろよ」
「はい」
Aのアパートの前に車を駐車して、2人で車の外に出た。
荷物を持って送ると言ったが、ここで大丈夫だと頑なに断られてしまった。
軽くお辞儀をしたAは背を向け歩き出すとふと何かを思い出したように振り返ってくる。
どうしたのかと固まっていると、何かを言いずらそうに1度俯いたあとまた顔を上げてくる。
「冨岡先生、助けてくれて、ありがとうございました」
差し込んでくる西日の光がAの顔を明るく照らした。
そしてそのオレンジ色の光を取り込んだAの目が輝き、柔らかな笑みを浮かべたその表情を見た瞬間。
_______ッ!!!!
これまでに感じたことの無いほどの痛みを頭に受け声にならない小さな悲鳴をあげた。
「冨岡先生!?」
突然頭を抱え狼狽え始める俺を心配してか、Aが焦ったようにこちらに駆け寄ってくる。
どんどん視界が狭くなって、その特徴的な見た目も把握できなくなる。
「A……」
縋るように口からでたのは何故か、その名前だった。
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中川さおり(プロフ) - このシリーズが出来たらまた読みたいです (11月19日 11時) (レス) @page47 id: 70c247066b (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 私も義勇さんが大好き過ぎるので、なかなか読むのが辛かったですが笑、こんな風に前世で繋いだからこその縁がある、というのがまた素敵で、感動しました( ; ; )次回作も首を長くしてお待ちしております!質問コーナー楽しみです!また読み直してみようと思います! (2021年9月23日 11時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
莉子 - 完結おめでとうございます( ; ; )このお話が立ち上がってからのファンですが、本当に物語の世界観と作者様の文章が好きで、更新待ちしている時も何度も読み返してました。更新される度に嬉しくて舞い上がってすぐ読むくらい、大好きでした泣。本当にお疲れ様でした! (2021年9月23日 11時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - 完結おめでとう…。いい話だった‥。幸せに終わった、良かった。これでお別れだな。面白かった。これからも頑張ってくれ。冨岡義勇だ。 (2021年9月23日 7時) (レス) @page47 id: 2a3c5f3e4e (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - このまま義勇さんと結婚して欲しい!夢主とどうなるか楽しみにしてます。 (2021年7月31日 8時) (レス) id: 2a3c5f3e4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももりんご | 作成日時:2021年1月27日 3時