私が私で生きて死にたい ページ29
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パンダ「気をつけろよ〜」
棘「しゃけ〜」
ひとしきり喋ったあと、二人と別れた。
乙骨「Aさん、」
ミシミシと鳴る廊下を歩いていた。
立ち止まる乙骨を見ると、
両手をバッと広げていた。
『…』
私は近づいて、その両腕を掴み、
閉じさせて、胴体にパシンッとひっつけた。
乙骨「え、えぇ…」
私が抱きつくとでも思ったんだろうか。
未だ、アンタには挨拶をする気はないよ。
『今から七海と夜蛾学長のところにも行ってくるから、
終わったら乙骨のところに荷物持っていく。』
乙骨「…ついて行っちゃだめ?」
『大人の事情のお話もあるからだめ』
そういうと、乙骨はわかったよと小さく言った。
またあとで、と言い、
背を向けると、
『?!』
後ろからギュッ…と抱きしめられた。
離れないように力強く腕を締め付けている。
背中に乗る重みと、包まれている感覚で、
意外と乙骨の背が高く、大きいことに気づく。
乙骨「…なんでパンダくんと棘くんだけ」
掠れた低い声が、耳元で聞こえる。
強い呪術師ほど嫉妬心が強く束縛心が強い。
思いが強いから、呪いも強いんだろう。
『最期だからだよ』
乙骨「…」
『たぶんもう二度と彼らと会うことはないと思う』
程なくして、少しだけ腕の力が弱くなった。
その腕を解くと、
今にも泣き出しそうな目で私を見ていた。
『だから、乙骨をまだ抱きしめるつもりないよ。
……京都まで来てくれるんでしょ?』
私がそう言うと、
乙骨「僕は…っ、
Aさんのことが好きなんだ。」
と、乙骨は酷いことを言った。
強い意志を持った目、
嘘偽りのない声、
覚悟を決めた表情。
乙骨「だからずっと抱きしめたいし、
京都にも行ってほしくない……!」
『…』
乙骨「僕は、Aさんがいなくなることが怖いんだ」
仕方のない男だ。
私の気も知らないで、
簡単に自分の気持ちを言いやがって。
『私は元々ここにいちゃいけない存在だし、
……節操のない女だと思われたくないから、
私から抱きしめるのは最期だけって、決めてる』
乙骨は、私を好きになっちゃいけない。
私も、乙骨を好きになっちゃいけない。
『それに私にはずっと愛している人がいる』
乙骨「……」
だから、優しい嘘を付く。
これから呪術師として生きていくためにも、
“乙骨憂太”という人間として生きていくためにも、
私が私で、生きて死んでいくためにも。
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弓月有無%(プロフ) - 初コメ失礼致します!オリジナルが多くある筈ですのに、凄く面白かったです。感涙しましたし本当に考えられていてすごかったです!!続編も続けて楽しませて頂きます!! (3月6日 18時) (レス) @page50 id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
0000(プロフ) - 柚さん» はじめまして。お褒めの言葉をいただけて、とても嬉しいです。かなり不定期な更新となっていますが、これからも読んでいただけると幸いでございます。これからもよろしくおねがいします🙇♀️ (2022年4月14日 23時) (レス) id: 201e0a3aec (このIDを非表示/違反報告)
柚 - はじめまして!とても作品が面白かったので、今までで1番読み入ってしまいました!出来れば小説としてお金を払って読みたいぐらいです笑お話の細かい所まで考えられていて本当に凄いと思います..!作品を作るのは大変だと思いますがこれからも楽しみにして応援してます (2022年4月13日 23時) (レス) @page47 id: 05cc864757 (このIDを非表示/違反報告)
0000(プロフ) - ゆゆさん» ご指摘していただいた上に、このお話へのお褒めの言葉とお気遣い、本当にありがとうございます🙇♀️!歌姫先生の年齢は完全に私のミスですので、修正いたします。大変失礼いたしました。 (2022年4月4日 0時) (レス) id: da97561712 (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - ↓作者様にお願いがあるのですが,下のコメントを見た後は「ゆゆ」と言う名前でコメントされている二つのコメントを消して欲しいです。このような神作にこんなコメントを残したくありませんので,よろしくお願いします! (2022年4月3日 22時) (レス) id: 05967b49de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:。 | 作成日時:2022年2月14日 21時