そばに居るから。 2 (ページ8)

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#56 (少し過去のお話) ページ8

side涼太

僕が子どもの頃に見た景色は、真っ黒だった。

目を閉じれば当たり前に真っ暗。だけど目を開いても、広がる景色は真っ暗だった。

少し先には外へ繋がるドアがある。そこからはいつだって明かりが漏れていた。

だけどその明かりの元に僕が行くことは、決してなかった。

行きたくても、手は届かない。

動こうにも、首に巻かれた犬のためのリードが邪魔をする。

まぁ、自分の首に巻かれたものが犬の首輪で、リードで繋がれていたということを知ったのは、もう少し大人になってからだった。

その時の僕は、何かよく分からない紐と鎖で繋がれているといった認識だった。

そしてドアは決まって、10時と20時に開く。

１日に2度開くドア。そこからお母さんがメロンパンを1つ、僕に向かって投げるんだ。10時には350mlの水も1本、投げてくれる。

それがとても嬉しかった。

まだ幼すぎて、この世界を何も知らない僕には、これが当たり前の生活だった。

僕にとってはこの常に真っ暗な部屋と、隣の常に明るい部屋だけが、この世界の全てだった。

6歳になって、初めて外の世界を知った。

学校に通う毎日を送るようになった。

テストはいつだって100点を取った。

100点を取れば、お母さんは怒らなかった。

だからテストは100点以外は許されないんだと学んだ。

学校が終われば、すぐに家に帰った。

玄関を開くと、お母さんが僕の首根っこを持って真っ暗な "僕の部屋" に連れていく。
そしてまた、部屋から自力では出られないように繋がれる。

僕が学校に通い始めた頃から、少しだけ僕の夜が変わった。

だいたい深夜の1時頃にも、ドアが開くようになったんだ。