#63 ページ15
side龍友
電車に乗り込み、ひとり席に座って涼太の事を考える。
まさか、とは思った。
だけどあまりにもキョトンとするから思わず、テレビって知ってるかと聞いた。
返ってきた答えは、"知らない" だった。
その時ふと、初めて会った日のことを思い出した。
僕がコーヒーかココアのどちらが良いかと聞いた時、涼太は不思議そうにして何も言わなかった。
その時はただ、初対面だから遠慮してるのかな、なんて思ったけど。
もしかしたら、コーヒーとココアも知らないのか?
そんなことを考えれば考えるほど、涼太に対する疑問が出てくる。
最近はだいぶ暖かくなってきたのに、長袖に長ズボン、ハイネックのシャツ。
知らない言葉が多いこと。
そして1次審査の帰り道に気付いたこと。
それは、涼太はお金を持っていないこと。
切符は往復ぶん買ってあった。だから少しくらいお金を使っても電車賃が無くなることはないと思って、寄り道しようと声をかけた。すると涼太は、"お金?" とまた不思議そうに僕を見たんだ。
まさか、いや、そんなわけない。
終わらない自問自答を1人で繰り返す。
このオーディションに限らず、あまり人に関心を持ったことのない僕。
まぁ世間ではヤンキーとか不良とかって呼ばれる部類に入るような僕だから。
なのに涼太にだけ。
何故かわからない。
だけど涼太だけは。
どうしても放っておけなかった。
東京に着いて、少し離れた席に座っていた涼太の手を引いて降りる。
まだオーディションまで時間があったから、駅の近くにあった公園に連れていく。
龍「涼太、朝ごはん食べたー?」
涼「んーん、」
明るく声をかけてみても、俯いて首を振る涼太。
龍「なんやねん、なんかええもん持ってきとんのか?」
普通に、普通に、と意識しながら聞いた。
涼「…ん、」
すると少し動きが止まったあと、ゆっくりと自分の鞄を開いた涼太は、そのまま僕に中身が見えるように鞄を傾ける。
龍「…っ!」
朝の電車は7時20分発。
オーディションが終わるのは、早くて20時。
なのに鞄に入っていたのは、350mlの水1本と、メロンパンが1つ。
それだけ。
財布らしきものもなければ、本当にそれしかなかった。
ポケットには、帰りの切符が握られていただけ。
僕の中にあった何かが反応した。
涼太は僕が守らなきゃ。
涼太の家族は、何かがおかしい。
"虐待"
"ネグレクト"
そのふたつが頭をよぎった。
336人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
npagxp(プロフ) - 叶夢さん» ありがとうございます! (2020年8月27日 22時) (レス) id: 3150c02125 (このIDを非表示/違反報告)
叶夢(プロフ) - これからも楽しみにしてます(*´∀`) (2020年8月27日 19時) (レス) id: 08075bc0b9 (このIDを非表示/違反報告)
叶夢(プロフ) - 涼太が謝る"理由"(´;ω;`)気になります(´;ω;`) (2020年8月24日 21時) (レス) id: 08075bc0b9 (このIDを非表示/違反報告)
npagxp(プロフ) - りささん» いつもコメントありがとうございます! (2020年8月24日 20時) (レス) id: 3150c02125 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 涼太君が無事に退院出来るといいな(*^-^*) (2020年8月24日 1時) (レス) id: 3d828ae167 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:npagxp | 作成日時:2020年4月1日 19時