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『ありがとうございます!』


誇らしげに笑みを作り、そしてふと苦無を握りしめた自分の右手に目をやった。

特に傷も無く荒れていない。この力を手にする自分が、どんな風に生きてきたのか感じ取れなかった。

八方斎様は気にするなと言ってくださるけれど、私は自分の中で、払えきれない霧のようなものが渦を巻いていることを感じている。

私は変だ。


だって今此処に居る自分が、本当の自分なのか、訳も分からず疑ってしまうのだから。





__






お城に来て二週間が経とうとしていた。

八方斎様が私に仰る。


八方斎「実は最近このドクタケ領に、とある城の忍者が偵察に来ているのだ」

『忍者が?集団ですか?』


ドクタケの領域の中に鼠が侵入したと説明した。


八方斎「的確ではないが、恐らく二十近いな」

『二十。…かなり多いですね』

八方斎「厄介な事だ」


顎に手をやり、顔を曇らせる。
私が何かできたらいいのに…


八方斎「そうだA。お前が行ってはくれぬか」

『へ?私が…ですか?』


そう思っている時、私の心を読んだかのように八方斎様が顔を上げる。


八方斎「お前もかなり強くなった。しかしもっと高みへ行きたいとは思わんか?」


まるで高いところから私に手を差し伸べているようだった。


『高み………行きたいです。もっと強く』

八方斎「これはお前の初めての忍務だ」

『忍務…!』


忍者として、重要なもの。私がやるべき事。

私にとって大きな壁でもあったが、それを乗り越えることで変われそうな気がして輝かしく思えた。


八方斎「我らの領域に入った侵入者を、一人残らず」

八方斎「討ち取ってくるのだ」

『えっ』

八方斎「どうした?」


私は其の遠回しに言われた"殺す"という言葉に引っかかった。
喉に小骨がぶら下がるように、取れそうで取れないこの気持ち。


『殺す、のですか?』

八方斎「そうだ」

『絶対にですか?』

八方斎「絶対に」

『そこまで…しなくても…あの、…戦闘不能にして、話をすれば』

八方斎「そんな甘い事ではないっ!!!」


八方斎様が私に向けて怒鳴ったのは、これが初めてだった。

怒っている気は感じない。
只、私に教え込むように、心に直接教えるように鋭く声が響いた。

突然のことに肩を跳ね上げ口を閉じる。


八方斎「いいかA。我々の邪魔をする者はどんな奴も全員敵だ。我々"正義"を妨げるということは、悪事をする奴らということだ」

八方斎「この意味が分かるな?」

情→←誇



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作者名:ピーナッツ | 作成日時:2023年11月20日 7時

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