温 ページ41
山田「お前さんは少し早く忍の世界を見てしまっただけだ。あまり言うことじゃないが、此処に居る生徒たちも必ずでなくても何れはそうせざるを得なくなる瞬間があるかもしれん」
忍は皆、生きるか死ぬかの狭間を紙一重で生きていると、山田先生は仰った。
土井「お前をここで罰すれば、忍の世界じゃ途方もないことだ。任務なら尚更な」
土井「ただ一つはっきり言えることは、お前は此処に居ていいということだ」
瞬きをした私の目はどんな色をしていただろうか。
身体は前に傾いていた。
山田「お前さんの本心を聞かせてくれ」
微笑むお二人を前に、蓋をしていた本音を開けた。
『ここに…………居たいです……っ』
山田、土井「おかえり」
頬を濡らす私の頭を土井先生は優しく撫で、そして抱きしめてくださった。
声を上げて泣いたのは、これで二度目だろうか。
ふと、また頭に温かさが触れたと思えば、それは山田先生の手で。
温もりを感じた時、改めて実感した。
こんな私を受け入れてくださった。
それが何より、
嬉しかった。
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『先生……今夜のことはみんなに言わないでください…きっと心配するから…』
昼間の笑顔でみんなを安心させられたのに、これを知ったらまた曇ってしまう。それは私も痛むところがある。
山田「そのつもりだ」
土井「あいつら、なんだかんだ心配性だからな」
『はい、……とても優しくて、心強い六年生です』
だから好きなんです
山田「ん?何か今言ったか?」
『いいえ、……なんでもないです』
先生は私が落ち着いて笑顔を見せたのを確認なさると、静かに障子を閉めた。
私の中で、この経験を忘れることは無い。消えることも無い。
けれど、そんな私を受け入れてくださった。
此処に居れば、もう二度とこんな涙を流すことは無いだろう。
もう二度と、このことを思い返して悲嘆なんてしない。
これ以上すれば、みんなの優しさを無駄にしているのと同じだから。
心に蟠っていたものが薄れ、目を閉じた時、何か最後に考える間もなく私の意識は暗闇に落ちた。
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作者名:ピーナッツ | 作成日時:2023年11月20日 7時