笑 ページ37
彼女からの謝罪など、彼らには不必要なものだった。
小「もう謝るな。お前は何も悪くない」
仙「辛かったな…自分を責める必要なんて無いんだぞ…」
しゃくり上げて声と息がごちゃ混ぜになり、返したくても難しかった。みんなの言葉が優しすぎて、収まるのに時間がかかってしまった。
文「ほらもう泣くな。お前を酷い目に合わせる奴はもう居ない」
長「私たちが居るから」
うん、うん、と強く頷いた。
やっと自分で拭えるようになり、赤く腫れた目を懸命に開き、涙の流れが止まり始める。
留「伊作お前もだぞ」
伊「ぅ゙ぅ……っ」
まだ私を抱く腕を離そうとしなかったが、つつかれてやっと離れていった。
『わ、たし、っ、みん、なに、、ひど、ぃ、こ、と、』
でもしゃくりがまだ止まらない。上手く空気を吸えなくて、それでもちゃんと言いたくて、みんなの顔を真面に見られず、地面に向かって言葉を落とす。
酷くしゃがれた声だった。
留「気にするな、俺たちも気にしてない。あれくらいどうってことない、お前が無事ならそれでいいんだ」
心が痛む。優しい言葉を受け取れる権利があるのか、私は怖かった。
小「それにあれは本当のAじゃないしな!今のお前が本物で、今までのお前はお前じゃない。つまりお前は誰も傷付けてない!」
文「いいこと言うじゃんか」
長「小平太の言う通りだ」
『こへぃた………』
「細かいことは気にするな!」と笑う小平太が頭巾を被らない私の髪をくしゃくしゃにする。
止まり始めていた涙が、緩んだ涙腺からまた滲んでしまう。
間違いなく嬉し涙だった。
まだ鼻を啜り、優しい声色で伊作が言う。
伊「僕、ずっと見たかったんだ。Aの、Aらしい笑顔。……そろそろ見れるかな」
はっとして顔を上げると、みんなが微笑んでいた。なんて優しい眼差しだろうか。
……私も、ずっと目一杯に笑いたかった。
『うん………!
ありがとう……………!』
満開の笑顔に、もう濁りは無かった。
今までの冷酷さが嘘のよう。あれは演技だったのではないかと現実を疑ってしまう。
彼女の中に残る、辛く悲しい記憶は消すことができないかもしれない。それでも思い出させないようにすることなら、彼らにもできるだろう。本人たちもそう信じている。
安心していた。Aの笑顔に何ら変わりなくて。彼女が居ないことで笑う数が減っていた彼らも、久しぶりだった。彼女と同様、もしくはそれ以上に六年生も嬉しかった。
33人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピーナッツ | 作成日時:2023年11月20日 7時