還 ページ36
六つの声が重なった。
徐に顔を上げる六年生。
Aの声は、静かで、嬉しそうで、そして辟易としていた。
私を見る
驚いて口が半開きになり、信じられないものを目の前にしたように私を見て何も発さない。
それは五人も同じだった。
みんながみんな、同じ
『ごめん……………ありがとう』
『遅くなってごめん』
彼女の冷酷だった顔に、まだぎこちない笑顔が浮かぶ。
真面に声を出せない伊作が抱きしめたのと同時、五人は声と力を抜き落とした。
留「A…………お前……、ほんとうに……」
仙「、……わかる…のか………?」
みんなの声が、耳元で聞こえる伊作の泣き立てる声でよく聞こえない。
『なんでだろ……やっぱり、みんなは凄いね』
ぽたりと涙が落ちた。
それは伊作の着物に落ち、笑顔は六人全員に吸い込まれていく。
仰天と安堵で腰を抜かしながらも、彼女に駆け寄る五人。伊作をも巻き込み押し潰すように、小平太も大きく広げた腕を回した。
文「思い出したんなら……っもっと、はっきり言えよ…っ」
その声は勢いを押さえつけるように震えていた。
一人一人の名前を口にした。
不思議な感じだ。
ゆっくりと、みんなの目を見て。
『思い出せたよ』
笑顔と声は震えていた。
刹那、六人の歓喜余った声が大きく響く。
はっきり届くみんなの声に、私は声を上げて泣いた。感情を一つでは言い表せなかった。
全員の名前と顔が分かる喜び、腕に抱かれる安心感。自分の為に喜んでくれるみんなを見ると、涙なんて我慢できなかった。
今まで空っぽだった頭の中に、溢れんばかりの思い出が敷き詰められていく。
自分は何を強がっていたのか。
私はこんなに辛かったのだと、今の自分からそう思う。
さっきまで痛めつけることに殆ど躊躇いも情けも無かったのに、自分がやったことが今では刃に刺されるように痛く感じる。
あんなに酷いことを言ったのに、痛い思いをさせたのに、決して見捨てないでいてくれたみんなには、この上ない感謝と申し訳なさでいっぱいだった。
『ごめん……っごめんなさい……っ』
絞り出した声は震え、必死だった。
只、「ごめん」と何度も許しを乞うだけの声を上げるA。
一方六年生は今まで冷え切った彼女の姿勢がこんな形に変わり、本人が本当の自分を取り戻したことを改めて実感していた。
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作者名:ピーナッツ | 作成日時:2023年11月20日 7時