逼 ページ34
弱々しい声が強くなり、私の頼みを拒む。言葉の通り力を込めて、私を何処にも行かせまいと苦しい程に締め付けた。
伊「駄目だ。そんなの許さない」
私の視界に彼以外の姿が映り込む。
小「私も嫌だ。お前が此処を去る理由は無いんだ。忘れることなんてできる筈ない」
文「一人でどうするつもりだ。当てがあるのか。お前にしがみついてるそいつを見ても尚、知らんふりをするのか」
何も言えなかった。必死に説得を続ける彼らを前に、私は何を言うのが正解なのか。自分がどうしたいのか正直よく分からない。
何方を選択するべきなのか。
ふと、私の身体が小刻みに震え出した。
私ではない。私に縋る彼の身体から伝わるものだった。
鼻を啜る音、私がそうさせたのだろうか…?
留「こいつがお前を離すと思うか…?」
徐々に視線を私と同じ高さまで合わせると彼は言った。
留「なぁ……無理に思い出さなくていい。だが俺たちはお前を一人にしたくないんだ。お前を行かせれば、幸せになるやつなんてきっと一人もできない。お前だってそうだろ」
其の言葉に下瞼から込み上げる熱いものがあった。
辛い時こそ誰かと居るのが為になると信じる。
心配しているだけじゃない。俺たちがお前を必要としている。
今までの当たり前が戻ったらどれだけいいか。
最低限彼女を引き止めることが優先でも、願わくば思い出してほしい、それが俺/私/僕たちの思いだった。
「お前さえ戻ってくれれば」
本当は違う。
叶わないのかもしれない。…弱気になるな。
そうやって前を向きたくても、映るのは石が転がる地面ばかりだった。
伊「みんなの言う通りだ…でも、僕はどうしてもお前の記憶を取り戻したい。方法も、あるのかな、なんて弱気なくせにさ」
伊「出会ってから今まで毎日が楽しくて、お前の笑顔に誰もが救われていた。楽なことばかりじゃないけどそれも大切な思い出で、忘れたくないし忘れてほしくないことばかりだ」
段々と情に流されて視界がゆらゆらと揺れ、唇が震え始めるのを覚える。
懐かしさと温かさを感じられた。
心地好ささえも覚えていた。
この薬草の匂いも知っている気がして。
これらが私を戻してくれればいいのにとさえ思うようになってしまった。
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作者名:ピーナッツ | 作成日時:2023年11月20日 7時