嫌 ページ33
『記憶が戻っても戻らなくても、此処に居ることが苦になる。それならいっそ、記憶なんて無かったことにした方が気が楽かもしれない』
苦しい…＿＿＿＿辛い…＿＿＿＿＿
こんな気持ちになる為に助けられた命じゃない。
なんで私を引き止めるの。
なんで優しい言葉で苦しめるの。
あなたたちが私を苦しめてるんだよ。
あぁだめだだめだ。他人の所為にしては。
もう嫌だ。考えたくもない。
『放っておいて。お願いだから』
楽しい日常があったということを知らなければ悩まなくて済んだ。
幸せな記憶の存在を思い出してしまえば、更に過ちに対する責任を重く感じてしまう。
それならば、
忘れてしまった方が。
空っぽの笑みが零れた。
『もう一回、川に落ちてこようかな』
＿＿＿＿風が吹く。
身体が揺れた。
伊｢そんなこと…………言わないでくれ｣
Aの言葉に泣きたくなり、これ以上聞きたくないと、彼女を塞いだ。
優しく包むなんてこの時の伊作にはできず、衝動的に力を加えてしまっていた。
悲痛な表情に染まった伊作がAを抱きしめた。
身体が締め付けられて声が出ない。鼻を通り過ぎる薬草の匂い。涙が滲む声に次を言う言葉を失った。
伊｢記憶は要らない？思い出も…？僕たちと過ごした日々を捨ててしまうのかい？｣
其の声は静かで、でもやはり焦りと悲しみとが混じる不安定な色をしている。とても穏やかには感じられなかった。
『………だって……わかんない………どうすればいいの……』
『思い出せたら、今の私の記憶は消えてくれる？無かったことになる？…いくら幸せになっても、辛い過去は消えてくれない…』
どうしても勝つのは痛み。足掻いたって罪は私を追い回すだろう。其れを背負って生きるのが、どれだけ重くて苦だろうか。
まるで鍵の無い重りを付けて、深海に沈むような、そんな息苦しさ。
伊｢だからって捨てるのかい？｣
『幸せを知ってるから辛いんだよ。さっきも言ったでしょう』
私だって幸せを感じたい。
一人で充分だと言ったけれど、本当は…
仲間という存在が羨ましい。
願いたくても私の中の暗いものがそれを邪魔していた。
こんなこと、口になんて出せなかった。
『私のことは忘れて。私ももう二度と会わないようにするから。だから、もう離して』
此処で笑って生きられる自信無いから＿＿
伊｢嫌だ｣
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作者名：ピーナッツ | 作成日時：2023年11月20日 7時
