独 ページ29
気持ちだけの問題ではなかった。本当に身体は落ちていた。
尻餅を着いた時の痛みなんて知らなかった。
いつの間にか縄が消え、腕が自由になっていたことだって、何時気付いたかも分からない。
何にしろ私にはもう戦意なんて無かった。
すると六年生の咆哮が響き渡る。
文｢あっ…っ！！！あの野郎ぉっ！！！｣
留｢逃がすかっ！！｣
山田｢追わんでいい！｣
八方斎たちが逃走したのだ。Aを失ったも同然になり、完全に形勢逆転してしまったからだ。
戦力、数では忍術学園に劣る。
しかし山田は追うどころか、六年生を止めた。
小｢何故ですか山田先生！！｣
文｢このまま八方斎を逃がせば私たちの気が晴れませんっ！！｣
山田｢気持ちは分かる。しかし奴を追うことよりも大切なことが残っているだろう｣
『八方斎様………！待って………！』
まだ追いかけようとするAの腕を留三郎が掴む。
振り向かず、今にも泣きそうだった。
『ぃかないでください…っ…！…なんで…っ…なんで、』
八方斎様たちが行ってしまった。
私を一人残して。
初めて見放され、確信すると共に酷く落胆した。
今まで信じていた人に見捨てられたこの痛み。どう表せばいいですか。
教えてください。ちゃんと。
いつものように隣で私の顔を見て、ゆっくり話してください。
でも、身をもって自分は利用されていたことを知った。
八方斎様たちが私を置いていったことが、一番の確信となってしまった。
命を助けられ、騙され、私は感謝と恨み、何方の気持ちを持つのが正しいか、誰も教えてくれないの…？
土井｢A、お前は一人じゃない｣
若い先生が言う。
『………まだ信じられません…あなたたちと私、関係があっても、私には思い出せない』
『ドクタケにも帰れない、覚えてない。今の私は独りぼっち…』
『孤独感を消してくれるものがありません』
ずるりと身体を落とした姿は生気が感じられず、酷く哀しく見える。目には涙すら浮かばない。
最悪が重なり、彼女の心を押し潰していた。
ドクタケから離すことに成功はしたものの、それで記憶が戻るわけではなかった。
Aはまだ、暗闇に縛られたままだった。
本当の私が分からない。今の私は偽物なのか、それともこれが本当の私なのか。
これがって……どれ？
思い出しても、今のままで居ても、
それは私にとって辛いものだった。
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作者名：ピーナッツ | 作成日時：2023年11月20日 7時
