釈 ページ28
目を開けているのに、一瞬何も見えなくなったような気がした。
信じられなかった。
目が離せない。…何を仰っているのだろう。
山田「隠さず言え。分かるように」
『八方斎様、嘘ですよね。私を助けてくださったのに騙すなんてそんなこと、ないですよね』
固い笑顔で歩み寄った。
気疎く視線を泳がせる八方斎に、山田先生は更に刃を寄らせる。
八方斎「お前を悪用したのだ。コイツらはお前を傷付けられない、そう知っていたからお前を前線に戦わせた」
八方斎「お前は………忍術学園の生徒だ。その周りに居る奴らは皆お前と同級だ」
山田「A。今お前さんが着ている制服と、周りの六年生の制服、もう一度よく見比べてみなさい」
徐に振り向いた。
彼らが纏う深緑の装束。
さっき彼らが言っていたことを思い出す。
本当に、私の着物と同じだと言うのか。
私は口を開いたまま、声が出なかった。
悲しそう。悔しそう。
そんな表情に歪んだ八方斎様を下から見つめる。
信じたくない。それだけだ。
有り得なかった。今までずっと優しかったあの人が、私を騙していたなんて、本当の私の居場所は
今まで敵としていた学園を、いきなり本当の居場所と伝えられて、「そうですか」なんて言えるわけがない。
山田「本当だA。聞いたろう、八方斎の本音を」
あの教師が無理矢理言わせたと思った。
でも、無理だった。
認めたくないが、そんな風には見えなかったから。
『両親を亡くして、その所為で、私は』
どうしても言い訳を作りたかった。
八方斎「違う……お前は川に落ち、溺れ、そして記憶を失った。偶然川下に居た我々がお前を引き上げたのだ」
同じだ。六年生が言っていたことと。
私は川に落ち、溺れて記憶を失った。そう彼らも言っていた。
『でも……忍術学園は世を乱す…』
山田「この学園は忍者を育てる学校だ。真っ直ぐ夢に向かう子供たちを育てる学校だ」
土井「この学園で育った子供たちは立派な忍者として、人として、世に出ている」
もし、それが本当なら、私はそんな学園を恨んでいたのか…?
実際に見たことも無いくせして。
そういえば、私は確信させてくれるものを見せてもらっていなかった。口頭だけの噂を聞いて、疑いもせず信じてしまった。
『じゃあ……』
本当に全部嘘……?
脱力して、まるで穴に落ちるように身体が沈む。
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作者名:ピーナッツ | 作成日時:2023年11月20日 7時