逃 ページ25
覚えてる。楽しいこと、楽しい話。笑いながら食べたご飯の味。夢なんかじゃない。あれは思い出だ。
でもおかしかった。それが誰だったのか、顔が分からなかった。
私の隣に座る人や、正面に座る人。六人居ると分かっているのに、顔の部分がぐちゃぐちゃで思い出せない。
後輩だとか授業だとか、ドクタケに居てそんな言葉を聞くことがあっただろうか……
でもきっとドクタケの皆さんの筈なのに、自信を持ってそうだと言えなかった。他にそんな人、知らないのに。
伊｢僕覚えてるよ…！お前と、此処に居る僕らで話したこと！僕はいつも落とし穴に落ちるし、不運で、いつも留三郎に迷惑かけて…｣
思い出してもらおうと、伊作は自分たちだけの思い出を話した。
＿
｢ さく…今日一日で何度目だ？ ｣
｢ あはは、四度目かな…と さ ろう ｣
｢ 不運もあるが、お前の不注意にも責任がある ｣
｢ 鍛錬が足りんねぇんだよ ｣
｢ 今度私たちと一緒に鍛錬するか！ ｣
｢ アルバイトもいいぞ…もそ ｣
＿
小｢私は煮豆が嫌いだーーっ！！｣
記憶を呼び起こすように小平太が叫ぶ。
＿
｢ お前また俺のところに煮豆置いただろう！！ ｣
｢ だって ん じろ 煮豆好きだろう？ ｣
｢ 好き嫌いあって忍者が務まるか ｣
｢ 気付かないお前が悪い ｣
｢ なんだとぉっ！？ ｣
｢ やんのかぁっ！？ ｣
会話が脳裏に蘇る。
顔の無い人間が話している。
何故彼らがそんな詳細を知っているのか、心当たりのある話、覚えている話を知る筈のない彼らから聞き、私は何も言い返せなかった。
彼らが知っていることを、何故風鬼さんたちは覚えていないの…？
留｢覚えてるんだな…！それが俺たちだとまだ分からなくても、お前は俺たちとの思い出を覚えている！！！｣
『ち、がぅ……』
文｢戻ってこいAっ！！お前の居場所は此処だ！！忍術学園六年は組、鈴音Aだっっ！！！｣
『違う違うっっ！！！幾ら言えば分かるの！！私はドクタケ忍者だっ！！文次郎たちとは違う…！！』
文｢A……！｣
仙｢あいつは気付いてないのか…？｣
頭を振る本人は気付いておらず、現実逃避で必死だった。
逃げているのは今のA。本当のAとの気持ちが逆流し、彼女を混乱に追い込んでいるのだ。
『全部…全部
直ぐ側にある思い出が。
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作者名：ピーナッツ | 作成日時：2023年11月20日 7時
