伝 ページ19
小｢Aっ…！｣
山田｢待て小平太！｣
山田｢A！覚えとらんのか！儂らのことを！｣
髭を生やした先生らしき男が私に叫ぶ。
『覚えてるか？ですって？私に思い出さなきゃいけないことなんてありませんよ』
土井｢此処に居る者は全員お前の味方だ！仲間だ！ドクタケにお前は騙されている！思い出すんだ！！｣
誰がそんな言葉に騙されるものですか。
完全なる嘲りから鼻を鳴らした。
『あなたたちが私の味方？笑わせないで。そんな子供ですら分かりそうな嘘で騙せると？もっとマシな嘘は吐けないの？』
誰かの悔しそうに息を詰まらせた声が聞こえる。それを聞き流して目を閉じ、胸に手を当てた。
『八方斎様はね、私を助けてくださった。一緒に居てくださった。それはドクタケの皆さんも同じ。優しくしてくださって、世を教えてくださって…そして』
『私を強くしてくださった。恩人なの……そんな人たちの、何処が悪いって言うのっ！！！！』
四方から飛び交う幾つもの声を裂くように、苦無で空中を切りつける。
掠れ、太く濁った声に彼らは絶望を覚えた。
豹変し見たこともない表情は、全員を切迫させた。
今のあいつに何を言っても届かない…
どうすれば思い出してくれる…
絶対手段はある筈…
早くAの記憶を…
元のAに…
お願いだ…思い出してくれ……
六人の思い、それ等全て彼女に届くことは無かった。届く前に壊されてしまうからだ。
ドクタケのことを悪く言われ、私は更に腹が立った。苦無を握る両手に無意識に力が流れるのが分かる。
憎しみが増えていく中、それでもまだ誰も手に掛けられていない事実で胸苦しい。
山田｢やめろっ！！｣
彼らの中に突っ込んだ。
人数は八人。対して私は一人。
全員が飛び掛かってくれば一溜りもないだろう。
でも私は心に決めている。この命が削れようと、その前に忍術学園を亡くそうと。
ズタボロになろうが死ぬまで怒りを振るうつもりだ。
八方斎様の為とならば、この命を懸けてもいい。
助けてもらった命を、恩人に使うことに迷いは無い。
それが
小｢思い出してくれっ！！｣
苦無の使い手が私を止め、四本の苦無がぶつかり合う。
土井｢小平太！！｣
お互い両手に持つ苦無は、私たちの顔の前で押し合いになった。
正気なら今両手が塞がっている私を横からでも攻撃できるのに。彼らの中に私に刃を向ける者は居なかった。
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作者名：ピーナッツ | 作成日時：2023年11月20日 7時
