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次の瞬間、染まる苦無を毟るように取り、転びながら逃げるように其の場から立ち去った。


ドクタケ城に帰ってからは手を洗いに洗った。
乾き切ってしまったものは中々落ちにくかった。

同じ色でも一体何人分になるだろう。
透明な液体が溶けた新しい液体で濁り、流れていく。
息を荒らげながら何度も水と擦った。

綺麗になってもそんな気がしなかった。
何かまとわりついて離れない感覚。

走るように染まった着物を脱ぎ捨て、痛い程身体を洗い、お湯にすら浸からず、寝巻きを着、ぎこちない笑顔で少ない会話を交わし、襖を閉め、二週間前に与えられたこの部屋で、布団を被った。

目を閉じて息を吸い、吐いて、どうにか自分を落ち着かせた。

こんなことで怯えていては、これからの本分を尽くせない。



『明日……明日、忍術学園に』


此処に来た時、初めて教えられたもの。初めて聞いたもの。
それなのに、何か引っかかる気がする。


憎むべき学園なのに、聞く度にどうも一度止まってしまう。

本当はそんな悪い学園じゃないのでは?と思ってしまったこともあった。でもそんなこと口に出せるわけもなく、八方斎様を悲しませたくなくて、言わなかった。


『変なの…』


頭を振って考えが浮かぶ度に消した。

意味も無く敵を憐れんでしまう自分を嫌った。

明日、ずっと私を悩ませた忍術学園に行くんだ。


息を吸って、また目を閉じた。






_







朝。身支度をしていると、襖の向こうから八方斎様の声。


『どうぞ』

八方斎「おはようA。よく眠れたか?」

『おはようございます八方斎様。はい、よく眠れました』

八方斎「今日はこれを着て行きなさい」


と、八方斎様は手に持っていたものを前に出した。


『これは…確か私が最初に着ていたもの…』


きちんと畳まれた、私が初め此処に来た時に着ていた深緑の忍装束。


『どうしてですか?この制服じゃ…駄目……ですか?』


先程着替えたばかりで、私はドクタケ忍者の証のこの制服を着ていきたいのに。


八方斎「いや、駄目ではないのだが。これを着て行ってくれ」

『どうしてですか?』

八方斎「お前がこうやってもっと強くなり、強き娘になったのだ。あの時のお前からの今のお前への成長を、これをもって改めて実感したいと思ってな」

『八方斎様…』


優しく微笑む八方斎様に私も同等に微笑んだ。

赴→←罪



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作者名:ピーナッツ | 作成日時:2023年11月20日 7時

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