憶 ページ1
瞼が痙攣し、重々しく長い睫毛が上がる。
八方斎「お目覚めかな?」
『……………こ、…こは……………………』
木野「八方斎、目が覚めたのか?」
八方斎「はい殿、意識が戻ったようです」
Aは布団から身体を起こす。
少し辛そうに頭を抱えながら、ゆっくりと部屋を見渡した。
『ここは……』
木野「此処はドクタケ城じゃ」
『どくたけ…じょう……?』
八方斎「お前は川で溺れ、儂らの手で助けられた」
『川で…溺れた…………わ、たし……が?』
状況が上手く分からず、頭の回転が鈍くなっていた。
二人の顔を何度も見比べるが、その表情は不安よりも理解できていないような色に染まっている。
木野「安心せい。其方を傷付けたりはせん」
八方斎「た〜だ。お前には人質になってもらう。忍術学園を討つ為の人質としてな」
八方斎「おい、聞いてるのか?」
Aは二人を視界に入れながら口を閉ざしたままでいた。そして相も変わらず其の表情からはなんの感情も感じ取れない。
『あなたたちは…………』
『だれ……?』
『ここは………?あなたたちは…だれ?』
八方斎「だからぁ、此処はドクタケ城で、儂は稗田八方斎。で、其方にいらっしゃるのが城主の木野小次郎竹高様だ」
そう説明しても首を傾げるばかりだった。
八方斎「まったく、物覚えが悪いな?儂とお前は初対面ではないだろう。忘れたとは言わせんぞ?」
座ったまま動かないAに、八方斎が歩み寄る。
『………だれ…ですか……?……私…どうして……』
八方斎「変だな。ここまで言っても分からないとは。殿」
木野「ふむ…この娘がここまで冷静に儂らを欺いているとは思えん」
変わらなかった表情は徐々に雲を作り始め、不安を感じているようだった。八方斎はそんな姿に疑問を持ち始める。
八方斎「儂らはお前を人質に、忍術学園を攻めると言ってるんだ。忍術学園はお前が捕まってると言えば慌てるだろう?それを使うのだ」
『にん……?攻める……?』
知っている筈の八方斎を目にしても、「知らない」「分からない」と言うばかり。溜まっていく不安と恐怖に、Aの目に涙が滲み始めた。
木野「八方斎」
八方斎「はい、殿?」
八方斎が溜め息を吐き、また強く言い聞かせようと思った時。木野小次郎竹高が呼ぶ。
木野「記憶を失ってるのではないか?」
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作者名:ピーナッツ | 作成日時:2023年11月20日 7時