【水溜りボンド】earnest

22話 ページ23

寛太side

・

朝Aの部屋で目を覚ました。

隣に彼女はいなかった。

どこ行ったんだろう、と起き上がって部屋を見渡すも、俺以外の人はいなかった。

ベランダには洗濯した下着が干されて揺れていた。


「A…？」


寂しかった。

昨日の夜まで一緒にいたはずだった彼女は起きたら隣にはいなくて。

その事実が悲しかった。

俺はベッドから降りた。

偶然テーブルの上が見えて、朝ごはんが置かれていることに気がついた。

横には置き手紙。


____

寛太くんおはよう。

私はもうお仕事に行ってくるね。

朝ごはんはベーコンエッグとロールパンとサラダを作ったよ。

サラダだけ食べないとか許さないからね？

横に置いてある封筒には気がついた？

それに家の鍵入れてるよ。

返さなくても別に大丈夫だけど、返さないなら寛太くんが大事に持っててね。

売ったりしたらぶっ飛ばすから！

行ってきます。

A

___


…？

手料理？

合鍵？

全部俺に？


「嘘だろ？」


信じられなくて俺は置き手紙を何度見したか分からない。

それ、俺に渡していいの？

彼氏とかは？

富永は？坂下さんは？

俺でいいの？


「……」


声にならない叫びが俺を震わせた。

この時、多大な優越感があった。

富永と坂下さんに対して。

俺が1番優勢なんだと信じることが出来た。

嫌いなサラダだって美味しそうに見えた。

とりあえず、AにLINEをしよう。


〈朝ごはんと鍵と手紙ありがとう〉

〈鍵は返さないで本当に大丈夫なの？〉


もう仕事中だろうから返事を待つ理由もないし、俺は朝ごはんを食べ始めた。

もう冷えきったご飯が時を感じさせた。

温め直そうと思って立ち上がる。

でも目玉焼きは確か電子レンジに入れたら爆発する。

…その為にコンロの上にフライパンが置きっぱなしなのか。

小さな気遣いが嬉しかった。

でも、俺は思った。

それは皿に取り分ける必要無かったんじゃない…？


「ふっ……」


一人で抑えられない笑みをもらせば、皿に乗ったベーコンエッグをフライパンに戻し温め直した。

温まるまで時間がかかるだろう、と思ったためふとよそ見をした。

真後ろにあった独立洗面台の鏡を見れば、俺の首元には赤い跡があった。

何だろう、と思って近寄ったらすぐに分かった。

キスマークだった。

つけた人がいるとするなら、Aしかいない。

それだけの事実に興奮してしまった自分がいる。

まだ子供だな。

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