探し物 ページ39
「……何処に、あるの…」
…呼吸を忘れてしまいそうになるくらいに、私は焦っていた。心臓が嫌な音をたてて、それがその焦燥感を更に膨らませていく。あの時、銀時が松陽首を斬ったあの瞬間や、晋助が私に背を向けて遠ざかっていく時と、同じような感覚だった。大切なものを、失う感覚。それは、恐怖だった。今にも泣きそうになりながら、私はただキョロキョロと部屋を見渡す。何度も何度も、同じように繰り返す。なすすべをなくしてしまったみたいに。
けれどリボンは見つからない。何処にも、見当たらない。混乱に陥った頭で私は考える。何処かに落としてしまったのか、それとも、髪に結んだこと自体が私の夢だったのか。気を失う以前の記憶に、そこまで信用性があるとも思えないかもしれない。あらゆる可能性をぐるぐると、私は考える。
…すると。
「探し物か」
「!!」
……不意にそんな声が、静かだった部屋に響いた。目を見開いて、反射的に私は声のした方向へと顔を向ける。そこには、さっきと同じように襖に背中を預けてこちらを冷たい目で見つめる晋助の姿があった。感情の見当たらない笑みを浮かべながら、そこに居る。口角だけを吊り上げたような、無異質な温度を帯びた笑み。その表情に、嘗ての彼の面影はやはりない。
声をかけられるまで、私は彼の存在に気付かなかった。探し物に没頭していて、また注意を怠っていた。もうこんな私は、いつ斬られてしまってもおかしくないかもしれない、なんてことを思う。
「…別に」
…晋助には関係無いよ、と。私は言う。彼に探し物のことを伝える理由も義理もない。それに、言った通り彼に何の関係もないことだ。溢れ返りそうな焦燥をなんとか冷静で押し潰し、何もなかったかのように畳の一点を見つめる。汚れや染みのひとつもない完璧な状態の畳に、何があるわけでもないけれど。強いて言うなら窮屈さがそこにはあるような気がする。何でも完璧すぎるものは、何らかの窮屈さを携えているものだ。
私は晋助に問い掛ける。それで、と。
「…何か用でもあるの?」
ていうか、ノックなり声をかけるなりしろって言ったじゃん、と。そんな割りとどうでもいいことを口にしてみる。どうやら、また子も武市も河上もいないらしい。晋助個人が、私に何か用でもあったのだろうか。それとも、単に様子見でもしに来たのか。
晋助はクツクツと笑いを転がし、懐に手を入れた。
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狗 - 長編小説って飽きやすいイメージがありますが、ピピコさんの小説は、全く飽きることがなく、むしろ読むたびに続きが読みたい!と思えます!最後までしっかりと読むつもりです! (2019年5月26日 10時) (レス) id: 0b828016c7 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - にんじんさん» にんじんさん!レス遅れてしまいごめんなさい!ありがとうございます!また子ちゃんは多分私の書く小説で出てくるのは初めてだと思われるので上手く書けているか不安でしたがそう言って頂けて安心です…!また子ちゃんだけではなく総督様にもご注目くだされば幸いです! (2018年2月14日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - また子ちゃんカワイイ! (2018年2月10日 12時) (レス) id: 5460fa1ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 鏡華さん!ありがとうございます!終わってほしくないと言って頂けて感激してます!書き手としてすごく嬉しいです!ずっと暖めていたお話なので展開をうまく開いていけるか不安ではありますが頑張らせて頂きます!高杉さんにそして土方さんの活躍をお楽しみに! (2018年2月9日 19時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
鏡華 - 終わってほしくないです!!高杉さんも関わってきて、続きが気になります!! (2018年2月9日 9時) (レス) id: a16b684fd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年1月27日 18時