自由 ページ13
「…随分いい部屋を用意して貰ったみたいだね」
…ぐるりと辺りをまた見回した。照明は少しばかり暗くて、部屋の印象もそれと同じように暗く感じられるけれど、それでもこの部屋の質はとてもいい。畳も日に焼けて変色していたりしないし、所々に置いてあるちょっとした家具のようなものも、高価なものに見える。けれど、なんだか生活感が感じられない。まるで、カタログのような部屋だった。見知らぬ場所、ということもあるけれど、どうしても居心地がいいとは思えそうにない。それに、大きな問題は窓がないことだ。
…まぁ、そんなことは今は取り敢えず置いておくとしよう。私は余裕を装ったような笑みを、浮かべ続ける。少しでも戸惑っていることを、彼に悟られる訳にはいかない。多分そんな偽りの笑みなんて、すぐにバレてしまうだろうけれど。「それに、」と、私は口角を上げたままに続ける。微かに掠れた声で。
「…どうやら今のところ、私は殺されないみたい」
「…ほォ」
…私の言葉に、晋助はそんな声を漏らしてはクツクツと喉の奥で笑いを転がした。昔と、笑い方も随分と変わってしまったものだ。その笑みに、過去の面影は見当たらなくて、どうしようもなく悲しくなってくる。昔の彼と、今目の前に立っている彼は、まるで別人のように思える。
…まるで、昔の彼が消えてしまったみたいに。
…それは、とても悲しい。
「何故そう思う」
晋助は再びそう私に問いを掛けてきた。私の気持ちを知らないまま。そんなものに興味はないのだと蹴飛ばすように。胸にツキリと痛みが走る。それを無視して、私は答える。
「…だって、この場で私を斬ったら、折角綺麗な部屋なのに真っ赤に汚れちゃうじゃない」
…晋助の左腰には、刀が携えられている。そこが居場所なのだと宣言しているように、そこにぶら下がっている。それを鞘から引き抜いて、その銀色を人工的な光にギラリと輝かせて、そうして私の首につきつければ、それを一振りしてしまえば、簡単に私のことなんて殺せてしまう。今、私のもとに、彼と同じ刃はないのだから。抵抗する手段なんて手元にないのだから。
…得物を持っていない私なんて、彼の敵ではないのだ。
「俺はンなこと気にしねェがなァ」
「…まさか、それだけじゃないよ」
…お互いに笑みを消さないまま、私は口を開く。
「…ちょっと、私を自由にしすぎじゃないかな」
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狗 - 長編小説って飽きやすいイメージがありますが、ピピコさんの小説は、全く飽きることがなく、むしろ読むたびに続きが読みたい!と思えます!最後までしっかりと読むつもりです! (2019年5月26日 10時) (レス) id: 0b828016c7 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - にんじんさん» にんじんさん!レス遅れてしまいごめんなさい!ありがとうございます!また子ちゃんは多分私の書く小説で出てくるのは初めてだと思われるので上手く書けているか不安でしたがそう言って頂けて安心です…!また子ちゃんだけではなく総督様にもご注目くだされば幸いです! (2018年2月14日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - また子ちゃんカワイイ! (2018年2月10日 12時) (レス) id: 5460fa1ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 鏡華さん!ありがとうございます!終わってほしくないと言って頂けて感激してます!書き手としてすごく嬉しいです!ずっと暖めていたお話なので展開をうまく開いていけるか不安ではありますが頑張らせて頂きます!高杉さんにそして土方さんの活躍をお楽しみに! (2018年2月9日 19時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
鏡華 - 終わってほしくないです!!高杉さんも関わってきて、続きが気になります!! (2018年2月9日 9時) (レス) id: a16b684fd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年1月27日 18時