伝えたい ページ2
…耳を疑った。そんなこと予想していなかった。負けた方勝った方の望みを叶えるというルールを提示したのは私なのに、勝ったのは土方さんなのに、彼は私の望みを叶えると言って聞かなかった。そんな話、聞いたことがなかった。目の前に自分の望みを叶えられる手段があるのに、それを誰かに向けるだなんて。それがこんな、遊びのような、冗談のような事柄だったとしても。
…私は、勝ったら土方さんに何をしてもらおうか、すごく悪意のある方向で考えていたのに。箱根のコーラを買って貰おうだとか、三回まわってワンと言って貰おうだとか、どうにかして土方さんを困らせられることを言ってやろうと企んでいたのに。いや、きっとそれが普通なのだ。うん。誰しも、ちょっとした悪意を持ち合わせているものだ。
…なのに、土方さんはそんな私の企みも知らず、そんなことを言ってのけた。本当に、彼はお人好しだ。もう少し自分のために何かをしてもいいと思うのに。
…そんなこんなで、渋々私は土方さんのその願いを……私の望みを叶えるという望みを受け入れ、頷いた。なんだか変な話だけれど、それが彼の望みなのだから仕方ない。頷くことしか出来なかった。
…少しの間、何を叶えて貰おうか考えて、それはすぐに思い浮かんだ。
『…今夜、土方さんのお時間を少しだけ私にください』
『いつもの場所で、待っていてくれますか?』
……お話したいことがあります、と。私はそう言った。真っ先に思い浮かんだ望みはそれだけだった。それまでに考えていた、悪意しかない望みなんてそっちのけで、そんな、小さな望みを、私は彼に叶えてもらうことにした。土方さんはそんなことでいいのか、とでも言いたげな顔をしつつ、素直に頷いて了承してくれた。
…小さな望みかもしれない。けれど、私にとっては、案外大きなものであった。
(……伝えたい…)
…そう思った。いつしか、知らないうちに私の中に存在して、その存在を主張していたその想いを、伝えたいと私は思った。そして、それを伝えるのなら。その言葉を、彼に告げるのなら。
…いつもの、あの場所がいい。
そう思いながら、私は閉められた襖の先にある、その場所を見据えた。まだ彼は来ていないだろうけれど、あと少しで、彼はやって来る。
「……ヤバイな…」
…ヤバイ、と。私は繰り返す。一丁前に緊張していた。心臓が、速い速度で音をたてていた。リズムを早めた、メトロノームみたいに、規則性を持って。
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狗 - 長編小説って飽きやすいイメージがありますが、ピピコさんの小説は、全く飽きることがなく、むしろ読むたびに続きが読みたい!と思えます!最後までしっかりと読むつもりです! (2019年5月26日 10時) (レス) id: 0b828016c7 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - にんじんさん» にんじんさん!レス遅れてしまいごめんなさい!ありがとうございます!また子ちゃんは多分私の書く小説で出てくるのは初めてだと思われるので上手く書けているか不安でしたがそう言って頂けて安心です…!また子ちゃんだけではなく総督様にもご注目くだされば幸いです! (2018年2月14日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - また子ちゃんカワイイ! (2018年2月10日 12時) (レス) id: 5460fa1ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 鏡華さん!ありがとうございます!終わってほしくないと言って頂けて感激してます!書き手としてすごく嬉しいです!ずっと暖めていたお話なので展開をうまく開いていけるか不安ではありますが頑張らせて頂きます!高杉さんにそして土方さんの活躍をお楽しみに! (2018年2月9日 19時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
鏡華 - 終わってほしくないです!!高杉さんも関わってきて、続きが気になります!! (2018年2月9日 9時) (レス) id: a16b684fd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年1月27日 18時