Happy Everyday 7th.

惚れた弱みby鳥谷 ページ28

「ずっとご機嫌斜めさんだったらしいですねー？北條くんから聞きましたよー？」

ったく、余計なことを吹き込みやがって。
あとで…。

「締め上げるのは、ナシですからね！」
鳥「…」

笑うAにきつく言われたら、仕方がない。

「ってことで、ありがとうございます」

切り上げられたキャッチボールは、意外と長かった。
横に並んで座れば、Aの顔中に汗が流れてるのが分かる。
汗が顎を伝って落ちてるのに、本人には拭こうという気配がない。

鳥「タオルないのか？」
「ありますけど、拭いたら一気にすっぴんになっちゃうんで」

『しなくても一緒だろ』と言いたかったが、ここはグッと抑える。
ニコニコするAは水分をとると、バッグからグローブを出してきた。

鳥「揃えてるな」
「まぁ、形から入る方なんで」

グローブの次は、小さなポーチ。
何が出てくるのかと見ようとした矢先、Aの手のひらに気付いた。

鳥「もうやめとけ」
「え？今日のメニュー、これで最後なんですけど…」

ファスナーを開けたAの手には、マメが出来てる。
そして、ポーチの中は、案の定のテープ。

鳥「そうじゃない。これから素振りをするな、ってこと」
「えぇ？！何で？！」

Aの左手を掴んで見ると、痛々しいのが数個もある。
処置はしてるらしいが、まだ完全には治りきっていない、

鳥「選手でもないのに、そこまでする必要がない」

笑ってた顔が、一瞬で不平不満に変わる。

鳥「今日したら、血マメになるぞ」
「せっかく、軸が出来てきたのに？」
鳥「軸よりも手の方が心配」

右手もついでに見てみると、同じようなマメがあった。
これでよく仕事とかができるな。
ある意味、感心する。

「でも！鳥谷さんに、ぜひ見ていただきたいんです！」

両手を握り返されて、溜めた涙を使っての上目遣い。
こんな定番でも、ブランクがある俺にとっては、最高の攻撃だ。

鳥「…ちょっとだけな」
「よしっ！」

この瞬間に出てきた笑顔にしろ、さっきの攻撃にしろ、嬉しそうにテーピングするの今も、全部が可愛い。
独り占めが出来てるこの瞬間が、どれだけ素晴らしいことか。

「何でニタニタしてるんですか？」

優越感にふけっている間に、Aはグローブをはめてバットを持っていた。

鳥「…別に。始めるか」
「ねぇ、鳥谷さん」
鳥「何だ？」

ポーカーフェイスには自信があったのに、Aの前じゃ思うようにできねぇな…。

「西岡さん並みに気色悪いです」
鳥「それ、心外」

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