Happy Everyday 7th.

気付くまであと少しby上本 ページ12

上「あと、アレつけてる？」

アレの名前が、パッと出てこん。

上「あのー…」

まつ毛に付けるアレを言いとうて、人差し指で表現したら、簡単に教えてくれた。

「マスカラ、ですね」
上「そう、それ！」
「はい！付けてますよ！」

Aちゃんが、今日一番の笑顔を見せてくれる。
ちいと言うてええか？
ぶち、かわいいわ。

「気付いてくれて、ありがとうございます！」

両手を握られて、ぶんぶんと振られる。
感動の仕方がすごいわ。

「上本さんがいっちゃん最初なんです！」
上「そ、そうなんだ？」

Aちゃん曰く、まつ毛の美容とマスカラを付け始めてかれこれ2ヶ月。
おおかた毎日会う広報スタッフも、選手も、一緒におる篤史さんじゃら、気付いとらんかったんじゃげな。
まぁ、そがいな系がうとい男ばっかりじゃけぇ、気付かんのもムリないか。

「あぁ、もう感動もんですよ！めっちゃ嬉しいー！」

こがいに喜ばれると、わしも何か嬉しゅうなるわ。

上「良かったなぁ」

さっきまではあがいに疲れとったのに、この短時間で見事な回復ぶり。
もう肩を貸さんでも、しゃーなそうじゃのぉ。

上「こんなトコに荷物置いとったら、蹴ってえらいことになるぞ」
「あ、そうでした」

落ちとった荷物を拾おうとしたら、Aちゃんと手が重なった。

「「…」」

こがいな展開って、ホンマにあるんじゃのぉ。
テレビやら映画やら、そがいな世界だけのもんか思うとったわ。
重なった手を離すことも、見つめ合うてしもうた眼も外すこともない。
廊下の片隅でしゃがみ込んだまま、お互いがどーしてええのか分からん状態になっとる。

上「あのさ…」

どうにかして先に進めようと、わしから言い出したのに、適当な言葉が出てこん。

上「さっき、何で下がったの？」

ようやく出てきたなぁ、ちいと気になったAちゃんの動き。
『何にもしない』って言いよるのにぶち下がるし、眼もぎゅってしとるし…。
その理由が、気になって仕方がない。

「え、いや…」

でも、Aちゃんは言葉を詰まらせて、眼を泳がせた。
顔にも陰りが出てきたし、どうしたんじゃ？
ほんの少し顔を前にしてみるが、Aちゃんもほんのちいと顔を引いた。

上「…何か悪いことでもしたか？」

そこまでされると、さっきのこともあって、罪悪感にさらされるわ。

「そんなことはありませんよ！」

視線を戻したAちゃんは、手をぶんぶん振ってきっぱり答えてくれた。
そうじゃろうな、わし、見覚えねーもん。

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