5 教えない。 ページ6
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また、また来てる…
私のバイト先であるコンビニに毎日のように来る隣の住人。
特別会話もしないが、必ず私のレジでコーヒーを購入する。
だから私も彼が来るといつものを買うと思い、すぐに提供できるように準備をしてしまうようになっていた。
「いらっしゃいませ。今日もいつもので？」
「いつもの、Ｓサイズでね」
「拓哉くんは…近くで働いているんですか？毎日来ますし…あ、別に貴方のプライバシーに関わるなら無理に言わなくても」
「なんかそれ、僕が君に言えないような仕事しているみたいじゃん」
なんで話しかけてしまったんだろう、と深く反省をした。
毎日来るってことは、この近くで仕事をしてるって事だろうし私が詮索しなくてもいいことだ。
「こちら、商品です」
「ありがとう。今日のバイトは何時まで？」
「もう終わりですが？」
彼はコーヒーを受け取るとまた小銭を渡してきた。
「会計は済んでますよ？」と言うと、彼が「君が飲みたいの奢るから」と。
奥にスタンバっていたオーナーが嬉しそうな顔をしているのが見えなくても分かる…
私と彼を"そういう関係"にしたいみたいだ。
「Aちゃん、拓哉くんと一緒に帰んなさい。帰るところも一緒なんだから、ね！」
オーナーは私の荷物を押しつけて帰宅を促す。
…オトコと一緒に帰るだなんてサイアク！
でも帰る場所は同じだし、少しの間我慢すれば良いだけ。
拓哉くんは私に害を与えてくるわけではないし。
なんなら飲み物奢ってくれるんだし、ご厚意に素直に甘えるとしよう。
拓哉くんを外で待たせるのは何か申し訳なくて
オーナーの許可を得て、奥の事務室に通して待ってもらうことにした。
その間仕事の後始末をし、先程彼から頂いた小銭で同じコーヒーを購入する。
「お疲れ様」
普段ならスタッフ同士で繰り返される労いの挨拶が妙に心臓に突き刺さる。
まだこのオトコが信用できるかどうかなんて分からないのに…
「コーヒー、ありがとうございます。お待たせしてすみません」
「じゃあ帰ろうか、鶴崎さん」
コーヒーを片手に二人並んでコンビニを出る。
ちょっと警戒してしまうから距離はそれなりに置いておく。
「…警戒してんの？何もしないよ？」
「拓哉くんは気にしなくていいですから」
「僕のこと下の名前で呼んでくれるの、大家さんと君くらいだよ」
「だって…苗字知らないですもん」
「教えない。ずっと下の名前で呼んで欲しいし」
な、なにを言ってるんだ！？
このオンナに慣れてる風なオトコは！
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作者名：*ゆ う* | 作者ホームページ：
作成日時：2024年3月26日 9時
