ハッピーエンドなんかない。6 ((Ryosuke.Y & Kei.I))

#208 ページ11

貴方side





何も言えなかった。


何も言わなかった。




ただ彼の目には、

泣き腫らした顔で頷く私が映ったと思う。



そうすることしかできない自分が
死ぬほど憎かった。






慧「今までありがとう」



『こちらこそ、ありがとう』




彼は、穏やかに笑ってた。


私には、悲しみを紛らわしてるように見えた。





これで慧と会うのは最後なんだろうな

ってなんとなく感じていた。




可愛らしい目に、

すっと通った鼻筋、

綺麗な形の唇。



真面目な所も、おちゃらけた所も、

優しい所も、少し強引な所だって、



彼の全てが愛おしかった。






慧「ねぇ…？」

『ん…？』

慧「俺さ、自分に素直になろうと思う」

『うん…』

慧「だから…」




後になってやっと気がついた。


このとき慧は、すでに私が嘘をついてるってわかってたことに。





慧「ちゃんと全部終わらせて、Aを迎えに行く」




でもこのときの私は彼の言ってることがよくわからなくて、





慧「…いいかな？」

『…うん』



なんとなく返事をした。



Aも素直になれよ

そんなメッセージが込められてるなんて知らなかった。







.






慧「じゃあ…」

『うん。またね』

慧「元気でね」

『慧の方こそ』




慧「うん。じゃあね」

『ばいばい』





私と慧の間が




バタン___




ドアで遮られた。







薄暗い内廊下をゆっくりと進み始めた。









.









私が置き忘れたおみやげに気づいた彼が、

泣いているなんて知りもせずに。

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