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貴方side
その後スタジオに戻って撮影は続いた。
さっきとは打って変わったセットの中、
スタッフから、遊んで、という指示を受け、
レトロなおもちゃで伊野尾くんと遊んだ。
『あぁ〜!』
慧「うわー、ななちゃん下手っぴだよ」
ケラケラと笑う彼。
彼の笑い声とシャッター音が響く。
『伊野尾くんが上手すぎるの』
慧「俺、上手?…そう言ってもらえて嬉しいー」
遠くから聞こえる洋楽。
その音楽が気分を上昇させた。
裏口での出来事があったから、彼との撮影は心配だったけど、
仕事だと自分に言い聞かせたら、胸の鼓動は落ち着きを取り戻した。
まだきっと、この気持ちは誰にもバレていない。
でもこれから先、恋愛ドラマをやっていくことを考えたら不安になった。
「オッケーです。以上を持ちまして撮影終了です」
ありがとうございました、と言いながらスタジオを去る。
慧「ねぇ、ななちゃん」
スタジオを出た所で彼がそう言った。
『なに?』
慧「俺のこと、知ってる?」
全身に鳥肌が立った。
覚えてないんじゃなかったの?
はじめまして、って言ったじゃん。
『…い、いや…』
知ってるよ、なんて今さら言えなくて咄嗟にそんな言葉が出た。
慧「そうだよね」
少し悲しそうな顔をしたように見えた。
やっぱり、覚えてるの?
慧「なんか一緒にいて楽しいなって思って。もしかしたら俺のこと知ってるのかな、って思っただけだから気にしないで」
彼はさっきの表情を誤魔化すように笑った。
『うん、わかった…』
慧「もうすぐドラマの撮影始まるけど、頑張ろーね!」
うん、と私が返事を言う前に、
ばいばーいって言いながら歩いていった彼。
彼が何を考えているのかはわからない。
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作者名:りめ | 作成日時:2018年1月21日 10時