no.29 ページ29
.
「んじゃまた後でねー」
「はーい。ケガだけはしないでね」
朗らかな笑顔で手を振るこもりんに手を振り返す。
さっきその場でバイバイするはずだったのに、
なぜか控え室のところまでお見送りに来てしまった。
よし、そろそろ私も準備しようかな。
「ちゃんと見ててね」
「ん、もちろん。今日も期待してますよ角名くん」
そっと手を握られながらそう言われて、笑顔で返す。
「ん。記者とか報道のひとに何かされそうになったら、
『角名選手が怒りますよ』て言いなね」
「言えません」
まずそんなこと言ったら週刊誌のネタにされちゃう。
珍しく杞憂に過ぎない心配をする角名くんの背中を
大丈夫だから、ほら行った行った！と笑顔で押した。
*
お互いのチームの点が決まるたびに歓声が上がって。
ファンの方々の興奮した声が会場内に響く。
こもりんに負けず劣らず、角名くんが点を決めるたびに、
女性ファンの方々の高揚とした声は聞こえた。
広報として角名くんの人気がでるのは嬉しい。
けど人気になっちゃう分、なんだか遠くに感じてしまって。
ちょっとだけ寂しくもなった。
「………先輩、私はすごくヤな女です」
「えっ、急にどうしたの！？」
選手に手を出した存在。
ファンからしたら一番嫌な人間だろう。
職権乱用、広報失格かもしれない。
……でも、もし角名くんとの関係を許してもらえるのなら。
一番近くにいてもいい存在として。
自分のほうから角名くんに甘えてみたいと思う。
お酒の力なんて借りずに。
その顔を両手で挟んで、精一杯背伸びをして。
下手くそとからかわれたキスをお見舞いしてやるんだ。
Fin.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1233人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：. | 作成日時：2020年5月29日 23時
