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ふと時計を見ると、正午の十数分ほど前であった。外からの声もいつの間にかしなくなっていた。お腹がぐぅと鳴る。

 今頃、お姉様達は儀式の祭典を行っているだろう。確か、歌って踊った後は、ご馳走を出して、この日のためだけに育てた赤い花を高台の祭壇から一気に撒き散らすのだとか。風のある日には青空に色鮮やかな花弁がぶわりと一瞬だけ舞って、とても美しく見えるのだと聞いた事がある。

 私も行きたかったな。食堂に向かいながらそう思う。赤く美しい花の噂は興味深かったし。

 ……そうだ。私は一つ考えつく。最上階に登ってそこから望遠鏡で高台の方を見れば、私も花を撒く様は見られるのではなかろうか。踊ったりご馳走を食べたりはできないだろうが、そのくらいなら。

 始める時刻は正午ぴったりだから、もう少しすれば始まるはず。昼食を食べている余裕はない。空腹で軽く音を鳴らすお腹を無視して、階段をのぼる。駆けのぼりたかったが、普段から運動をしなかったつけで体力がないのだ。

「はぁっ、はぁっ……はっ、はっ」

 息も絶え絶えに最上階の一室にたどり着く。この部屋は元々は天体の研究観察のために造られたものだときいた事がある。そのため、壁の一面がガラス張りとなっていた。天体観測に用いられたと思しき多種多様な望遠鏡や双眼鏡がガラスの棚に収められている。

 私はそのうちの一つをとって、高台の方向を見た。まだ始まっていないようだ。どうにか間に合ったらしい。ああ、良かった。あれだけ急いだのに間に合わなかったら、失望と疲れで倒れてしまったかもしれない。

 高台の祭壇にはジェシカお姉様が立っていた。強い風が吹いているからか、その長い髪の毛が空を泳いでいる。ジェシカお姉様の後ろにはアメーリアお姉様とガリオンお姉様がいた。高台の祭壇、崖側にいるジェシカお姉様に何かを話しかけているのが分かる。ジェシカお姉様はお二人に背を向けたまま頷いていた。

 ガリオンお姉様が杖を出して、ジェシカお姉様に向けて何かを呟く。次の瞬間、ジェシカお姉様は破裂した。飛び散るのは皮膚や臓物ではなく、赤い花弁。風にのって空に舞う。美しい。

 花弁が虚空に消えたのを確認して、望遠鏡をおろす。お腹が大きな音をたてる。そこでようやく、自分が空腹だと思いだした。

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作者名:ミクミキ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2022年5月25日 18時

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