【派生作品】聞くに値しないお話 (ページ8)

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朝起きると、お姉様達はもういなかった。儀式に出たのだろう。私一人しかいない食堂で、朝食を摂る。まったく、こんなに静かな食堂は初めてだった。その時になって気付いたのだが、鳥の囀りも、木の葉の擦れる音もしなかった。まるで、この森自体が儀式を迎えているようですらあった。

　私がたてる音しか聞こえてこない。食器の音、扉を開ける音、廊下を歩く音、自室のベッドに寝転んでたてた衣擦れの音。使用人の噂話の囁き声すら聞こえない。

　以前に言われた事はただ一つ。今日一日、家から出ない事。これだけらしい。アメーリアお姉様の口振りからすると、儀式のためだけでなく、私のためでもあるらしかった。元々外に出る事は好きではなかったから、特に気にするわけでもなかったのだが。

「ふぅん……」

　書庫から借りてきたいくつかの歴史書を読み漁る。このローア家の儀式に関する本には、今回の儀式の他にもこの地方に伝わる儀礼や催しについて記載されていた。

　中でも目を引くのは、ローア家三代目当主、ラフレシア・ローアの伝記である。彼女はどうも、世界各国の呪文形態についての研究を行っていたのだとか。現在伝わっているローア家の儀式やローア家秘伝の呪文の基礎を作ったのは彼女だそうだ。他では見た事もないような呪文の記載がされた本もあったが、もしかするとあの呪文も彼女が作成したものなのかもしれない。

　そして、そのラフレシア・ローアは儀式の創始者であり、儀式によって初めて命を落とした人間という。

　そこまで読み解いて、本を閉じた。読みすぎて少し目が疲れたかもしれない。目を閉じて一旦休憩でもしよう。

　窓からは、開けろ、開けろと、普段なら夜にしか聞こえないあの声がする。まだ日の登っている今に聞こえるとは思ってもなかった。私は窓の方を振り向かない。カーテンをしているだろうから直接その姿を見る事はないだろうが、カーテン越しにシルエットを知覚する事自体躊躇われたのだ。

　あの声の主は儀式を果たせなかった愚か者の成れ果てと聞かされた事がある。ゼロもいつか、ああなるのだろうか。