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Ending ページ15

どれだけ移動しただろうか。飛べるだけ箒で飛び、疲れれば近くの物陰に身を隠して死んだように眠る。食べられたのは川魚や小鳥などの小動物ばかりで、それすらも頻繁には現れないためにろくに捕まえられない。身体は汚れて異質な臭いがついた。

 そのような暮らしを数日続けて、ゼロはふと思う。そして一人呟いた。

「どうして、私は生きているんだろう」

 疲れてしまったからかもしれない。身体ではなく、心が。小さな藪の中、ゼロはへたり込む。大量に虫が噛んでくるが、それも気にならない。そもそも、気付けない。

「こんなに生きて、何をしようっていうの?」

 ゼロははじめ、姉達を助けたかった。自分に屈辱を与えたローア家に復讐をしたかった。しかし、どうだ。助けたかった姉は死んだ。慕ってくれた幼い従者も巻き込んだ。ローア家のした事を告発したかったが、今の私にそれができるだろうか。できたとして、それに意味があるのだろうか。

 自分が今義理で生きているような気がしてきて、ゼロはため息をつく。姉がその身を捧げてくれたから。従者が助けようとしてくれたから。死んでしまえば、それが無駄になる。だから生きているような。

 それに、自分は本当に逃げ切れたわけではないだろう。仮にここしばらく捕まらなかったとして、十年後、二十年後に、呪詛返しを行えるようになったローア家に報復される可能性もある。なるべく自分を呪える材料は処分したのだが、それでも彼女らはいつか必ずゼロを呪うだろう。ゼロは姉達の執着心を知っていた。

 結局のところ、逃げられないのだ。

「でも」

 ゼロは立ち上がる。

「私はやれるだけの事をする」

 それは決意のようだが、惰性でもあった。既に詰んでいたが、それでも前を見て歩くべきだろうと、そうゼロは考える。

 その行為に意味があるのかは分からない。意味も意義もそんなものはないのかもしれない。

 けれど、それはとても美しいものに思えたのだった。

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作者名:ミクミキ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2022年5月25日 18時

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