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捕まれば、終わり。ゼロは背後から聞こえてくる異質な声に怯えながら飛び続ける。
あの花は、呼び出しの儀式のようなものだ。生贄を食らった者を、森に放つための。それが何者かは知らない。知らないが、ろくでもないものだという事は分かっていた。
「ゼロ?どこへ行くの?そんなに急いで」
背後からブリジットの声がする。違う、あれはブリジットじゃない!ブリジットは生贄になったのだ。あれはブリジットを真似ているだけの、ブリジットではない何かであるのは明確だった。
ゼロは悲鳴を押し殺しながら、スピードを上げる。声は少しずつ近付いてきている。木の葉をかき分けるかさかさという音が聞こえる。
「ご主人様?どうしたんですか?」
口の奥から嗚咽が溢れた。それは行方不明になったゼロの従者の声だった。振り向きたかったが、振り向けなかった。振り向くわけにはいかなかったのだ。涙で視界が一瞬曇る。半ば過呼吸となる。
助けたかった。なのに結局誰も助けられなかった。後ろから追ってくる者共が、ゼロにはまるで助けられなかった人々の亡霊のようにすら思えた。
「もう……もう、嫌っ」
上体を前に傾ける。前だけを見られるように。森を抜ければ、安全なはずだ。それまで、それまでどうにか逃げ続けられれば……。
首のすぐ後ろを風が撫でる。少しでも位置がズレていれば、何か直撃していたかもしれない。刃物のような爪でうなじを引き裂かれるようなイメージをして、ゼロはゾッとして、細く長い息を吐いた。
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