カラフル＊短編集 13 (ページ11)

今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:62,782 hit

4 ページ11

.

「先にドア周りを片付けたら出られるのに」

『だね…』

「ああ言ってるし先に食べよ」

『うん』

心配する私を引っ張ってリビングに戻るとギョンスはさっさと椅子に座り、手を合わせてからパクパクと食べ始めた。じゃあ、と私も手を合わせてスープを一口飲む。はーあったまる…あ、そうだそうだ。

『で、話って？』

「あのさ」

一瞬忘れてたけどギョンスの方を向いてそう言えば、水を飲んで一度姿勢を正してから再び大きな目がこちらを向く。

「今の仕事、転勤になった」

『え、転勤って……どこに？』

「○○」

『○○って…え、そんな遠くに？』

「僕の職種だと異動先が限られるからね」

ギョンスの仕事は特別な研究をしている技術職。だから研究施設が各地に数カ所しかない。
しばらく転勤はないかと思っていたけど、そこへ欠員が出てしまったため、ベテラン勢の中から2名が異動者として決まったらしい。

『分かってるけど…えーなんか寂しくなってきた』

「ヒョンがいるからむしろ僕は安心してるけど」

『私じゃなくてギョンスがさ…』

「ああ、チャニョルも一緒に行く事になったよ」

『チャニョル君もなんだ…』

チャニョル君は弟の同級生。性格は全然違うけど気が合ってるみたいでいつも弟と一緒にいて就職も同じとこにしちゃったくらい。
あ、そういえば…もう1人の仲良しな同級生がいた。何のかんの言っていつも一緒にいて今はきちんと付き合ってる彼女のエリちゃんのこと。

『エリちゃんはこの事知ってるの…？』

「明日の辞令発表で分かると思う」

『どうするの？』

「うん……」

そう聞くと規則的にスプーンを口に運んでいたギョンスの手が止まり、少しだけ窓の外へ視線が移った。こんな弟の様子を見るのはあまりないからその横顔を見つめてジッと黙り込む。

「あいつ1人だと何するかわかんないから」

『それは心配だよね、え、何かしたの？』

「1人で居酒屋行って浴びるほどビール飲んでべろべろに酔ってうちのアパートの部屋の前で夜中ぐーぐー寝たりする」

『へ、へぇ～そうなんだ』

「実家から送ってきた野菜は仕分けられなくて腐らせるし」

『それはギョンスがこまめにチェックしてあげないとね、あ、でも転勤か…』

「うん、だからあっちに連れて行こうかと」

遠くを見ていた大きな２つの目がゆっくり私に向き、穏やかな声のままそう言ってくる。

.