頭痛が痛い【歌い手】

五錠目 ページ6

｢そういやさ、｣



｢ん？｣



心の中で坂田に謝っていると、突然志麻が話を切り出してきた。



｢あ、いや、最近、大丈夫なんかなーって…｣



｢あー、そっちね｣



“そっち”というのも、私は二年ほど前に階段の一番上から落ちたことがある。

私が起きた時に言っていた頭痛の原因も、きっと落ちた時に頭を強く打ってしまったかららしい。



ただ、志麻の言っている“そっち”とは頭痛の事ではなく、落ちた理由についての方だ。


私が階段から落ちた理由について、警察側は事故という形で終わらせているが、果たして本当にそうなのか、はたまたもっと違う、ちゃんとした理由があったんじゃないか、と歌い手仲間は思っている。


歌い手仲間が考えた結果、候補として浮上したのは《自 殺》と《リスナーによる他殺》。


こう考えた理由は、まず、私の引きこもり生活。


日頃からほとんど外に出ないせいで、会う人もかなり少ない。歌い手仲間と会うといっても、別に週に二回も三回も会ってる訳ではない。会っても月に一回、少なかったら三ヶ月に一回程度。

それによって、何らかの理由で精神が不安定だったんじゃないかということ。これが一つ目。


もう一つは、他リスナーによるアンチ。


アンチに関しては、歌い手活動を始めた時からずっとある。特に、浦島坂田船やATRとかとコラボをし始めた時は、それはもう酷いものだった。

しかし、それが死にたくなる程辛かった訳でもないし、他のみんなもちゃんとリスナーに説明したことによって、私へのアンチはかなり減った。
だから、これが理由とも考えにくかった。これが二つ目。


そもそも、なんで自分の事なのに落ちた理由が分からないのかが分からない。


自傷行為をしていた訳でもないし、自 殺願望があった訳でもない。



｢…大丈夫だよ｣



とりあえず、志麻にはそう言っておいた。


だって、それ以外に言いようがないだもん。

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