枝が折れたら ページ6
数日後、少し動けるようになったりゅうのすけお兄さんが真っ先にしたことは外套の洗濯だった。風呂場は使えないし、外でやろうにも日差しが辛いので私が洗うよと声をかけても、これは自分で洗うの一点張りだった。意外と頑固だ。
庭に広げた新聞紙の上で捨てる酒瓶を金槌で砕きながら、私は少し離れた所にいるりゅうのすけお兄さんを見た。
半袖で首にタオルを掛けたりゅうのすけお兄さんは木桶に張った水に外套を浸し、ざぶざぶと洗っている。時々腕で汗を拭っては辛そうに目を瞑っていた。
私は自分の傍らを見る。瓶はまだたくさん残っていた。
汚れた酒瓶だけ念入りに砕き、縁側を登って傘立てのある玄関まで走る。
「……?」
予告なく現れた影を不審に思ったのか、りゅうのすけお兄さんは眩しそうに細めた目のまま此方を見上げた。その目付きがとても鋭かったので、私は少し驚いた。
「終わるまで傘さしててあげる。ちょっとは涼しいよ」
お母さんの日傘は叔父さんが売ってしまったのでもうない。でも、普通の雨傘でも日避けにはなる。
「有難う、A」
「どーいたしまして」
お礼を言われたのが嬉しかったので、私は柄の太い叔父の傘を支えることに専念する。
桶の傍にしゃがんだりゅうのすけお兄さんの肩越しに、丁寧に丁寧に洗われる外套を見た。
■
洗った外套は風通しの良い室内に干した。私は幾重にも重ねた新聞紙で酒瓶の破片を包み、庭の隅に置く。
洗濯を終わらせたりゅうのすけお兄さんは縁側に座って果物ナイフで梨を剥いていた。声を掛けることが憚られるほど、その様子は真剣そのものだ。
「わ、綺麗に剥けてる。ありがとうりゅうのすけお兄さ……」
「指が……痺れた……」
「そんなになるほど頑張ってくれなくて良かったんだよ!?」
じりじりと照りつける太陽の下で外套を洗濯していた時より辛そうだ。
特に会話をするでもなく切り分けてもらった梨を齧る。濡れ縁に腰掛けぷらぷらと足を揺らしていると、ふと足元の地面に小石が落ちてきた。
<命中しっぱーい>
<隣の人だれ?>
<あっ、こっち見た!>
近所の子供達だ。彼らは垣根から顔を覗かせ、こそこそと喋っている。人に向かって石を投げるとは頂けない。ここはガツンと言ってやろうと息を吸い込んだ。
「おい、餓鬼共、用ならば此方で話せ」
声が聞こえた隣を見る。静かに喋る印象が多いりゅうのすけお兄さんが声を張ったことが意外で、よく通る声だと思った。
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若葉 - 途中からおじさん亡くなっているのかなぁ〜とは思ったけどすっきり読めて面白かったです。 (2023年4月10日 17時) (レス) @page16 id: 7981b3d9d1 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 月@坂田家さん» 妄想ありがとうございます(?) 芥川さんに恋愛感情はありませんが夢主が「恋人ごっこしよ〜」て頼めばワンチャンあるかもです (2019年10月14日 21時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 龍さん» ありがとうございます! 番外としてなら書いてみたいですね〜。コナンとのクロスオーバー……この夢主は犯罪者なので罪が必ず裁かれるコナン界では圧倒的不利…! (2019年10月14日 21時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
月@坂田家 - 龍さん» 最高かよ(真顔)ここからは私の妄想ですが僕の人と←←(すみません)夢主ちゃん付き合う的な?妄想してました。はい←← (2019年10月14日 18時) (レス) id: b21dfdda1d (このIDを非表示/違反報告)
龍 - とても面白かったです!続編が出るなら即効読みたいです!!探偵社と関わったりポトマと楽しく任務もこなす様子とか読んで見たいです。クロスオーバーで、コナンとのコラボもありかもと、想像してます!これからも応援してます。 (2019年10月8日 17時) (レス) id: 8c48355218 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年5月3日 14時