る ページ14
「血抜きが不十分だ。手脚は捻って筋を断つといい」
隣で屈むりゅう兄の横顔。呆気にとられて彼を見つめていると「どうした」と首をかしげられた。
「その人、私が殺したんだけど……」
「そうか。頑張ったな」
褒められた。それだけ。それでおしまい。りゅう兄は再び死体に視線を戻した。
「通常であれば薬品で溶かすが……圧力鍋があっただろう。煮込んで生ゴミとして捨てればいい。頭は歯を抜いてからだ」
胴体と頭の離れた人体。肉が削げ、骨が露出した死体を見てもりゅう兄は顔色一つ変えない。殺人に対する嫌悪や忌避といったものは、彼から微塵も感じ取れなかった。
「歯は治療痕から身元が──」
心臓がばくばくと鳴る。こめかみが熱い。私がまったく話を聞いていないことに気づいたのか、りゅう兄は言葉を切って立ち上がり、私に告げた。
「僕の名は芥川龍之介。横浜に拠点を置くマフィアの一構成員だ。今迄匿われた礼に、この死体は此方で処理してやってもいい」
「暴力を振るう人間を消したとてこの村全体に蔓延るお前への偏見や差別は消えぬ。だがお前は人を殺した。この先お前が平和な世界に身を置くほどその記憶は鮮明に残酷に蘇る」
りゅう兄の名字は�牾�川�瓩箸いΔ蕕靴ぁ３�川龍之介と名乗ったその人からは、私の知る彼の穏やかな声色も表情も抜けていた。
消えない、と言われた。人を殺した記憶も、汚いものを見るような皆の目も。
「なら、どうすればいいの」
独り言のように訊ねる。形の崩れてきた死体を見下ろした。
「殺しを日常として飼い鳴らせばいい。……その手を新たな血に染める覚悟があれば、僕と共に来い。
過去との決別を果たせるかは後の己次第だ」
乾いた笑いがこみ上げた。やっとわかった。りゅう兄はとっくに記憶が戻っていた。いや、最初から記憶喪失なんかではなかったのかもしれない。とにかく私がずっと綺麗で汚してはいけないと思っていたこの人の姿は、全て彼が意図的に作り上げたものであった。
「わたしね、りゅう兄が大好きだよ」
演技でも構わない。何かの対価にお礼を言われるのも、頭を撫でられるのも、全て初めてのことだった。だから彼が好きだ。私にとってはそれが全てで、その手をとるのにこれ以上の理由なんてない。
自分で持ちかけた誘いのくせに、りゅう兄は驚いた顔をした。
「──共に、来て呉れるのか」
迷わず頷く。布が擦れる僅かな音と共に、私の体はぬるい体温に包まれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 71人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
若葉 - 途中からおじさん亡くなっているのかなぁ〜とは思ったけどすっきり読めて面白かったです。 (2023年4月10日 17時) (
レス) @page16 id: 7981b3d9d1 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 月@坂田家さん» 妄想ありがとうございます(？) 芥川さんに恋愛感情はありませんが夢主が「恋人ごっこしよ〜」て頼めばワンチャンあるかもです (2019年10月14日 21時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 龍さん» ありがとうございます！ 番外としてなら書いてみたいですね〜。コナンとのクロスオーバー……この夢主は犯罪者なので罪が必ず裁かれるコナン界では圧倒的不利…！ (2019年10月14日 21時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
月@坂田家 - 龍さん» 最高かよ(真顔)ここからは私の妄想ですが僕の人と←←(すみません)夢主ちゃん付き合う的な？妄想してました。はい←← (2019年10月14日 18時) (レス) id: b21dfdda1d (このIDを非表示/違反報告)
龍 - とても面白かったです！続編が出るなら即効読みたいです！！探偵社と関わったりポトマと楽しく任務もこなす様子とか読んで見たいです。クロスオーバーで、コナンとのコラボもありかもと、想像してます！これからも応援してます。 (2019年10月8日 17時) (レス) id: 8c48355218 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こめ | 作成日時：2019年5月3日 14時
