最後にしたい ページ9
隣で桜の木を見上げる隆弘は、下唇を噛み何度か小さく頷いた。
色んな感情がその表情に凝縮されているよう。
『みおのことも……』
「……」
『大事にできなかった』
そして隆弘の言葉で、私は一瞬のうちに過去に引きずり戻される。
あなたを信じたいと、もがいていた日々。
あなたと一緒にいられれば幸せだと、寂しさと孤独に耐えていた頃。
『早く結果を出したいって、頭ん中は音楽や仕事のことばかりだった。
みおが大切だったのに。他の誰でもなく、俺がみおを幸せにしたいと思ってたのに……
仕事が順調にいけばいくほど、みおを待たせてることに罪悪感を感じるようになった。
自分に自信がなかったんだ』
あの頃……
私は仕事で異動が決まり、隆弘はソロ活動が本格化していた。
初めてのソロライブに覚悟を持って挑む彼とは、すれ違いの日々だった。
でも、余裕のない中でも楽しそうに、真剣に音楽、仕事と向き合う隆弘を私は素敵だと思っていたし、支えたいと思っていた。
まさか、私に対して罪悪感を抱いてたなんて……
『みおは俺にわがままを言わなかったよな。“もっと会いたい”とか、寂しい”とか、……将来のことや結婚…のことを話題にすることも……』
「……」
『……わかってた。俺がそうさせてたってこと。……みおは何も悪くない。悪いのは俺だ』
隆弘の横顔は、相も変わらず凛としていて儚い。
私は滲んでいく視界を拭って、当時の心を素直に伝えた。
「……あの頃は寂しかったし、孤独だったよ。でも私はそれでも側にいたかった。隆弘とずっと一緒にいる覚悟をしてたから」
今夜は泣くまいと、決めていた。
もう……、泣かないと。
『ごめん。俺が未熟だった。みおの人生を、みおの幸せを奪ってしまいそうで、怖かったんだ』
「……それで、あんな別れを？」
隆弘の横顔に問えば、彼もゆっくりとこっちを見て、眉間に皺をためて頷く。
『ごめんな』
「……」
『あんな最低な別れを選んだのは、そうでもしないと俺自身がみおと離れられなかったから。それと、みおには俺じゃない誰かと、早く普通の幸せを手にしてほしかったから』
「……勝手だね」
『ごめん……』
「隆弘にとって普通の幸せって何？ 適齢期に結婚して、子どもを産んで、子育てをすること？」
『……』
私の疑問を受け止めた隆弘は、瞳を揺らして視線を下げる。
私は、過去を振り返るのはこれで最後にしたいと思っていた。
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さら(プロフ) - chr916さん» お返事遅くなりました。何度も読み返してくださって嬉しいです。続きを更新しました。コメントありがとうございました。(^^) (2022年10月11日 4時) (
レス) id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» ご無沙汰しています。続きを少し更新しました。いつも感想をありがとうございます。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) @page49 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
chr916(プロフ) - 何度も読み返すくらい大好きです！続きが早く読みたいです🙇♀️ (2022年10月2日 19時) (レス) id: 2b8ccb9b49 (このIDを非表示/違反報告)
ao.ao - 更新ありがとうございます！胸キュン❤️いいなぁ〰と想像膨らませて読ませて頂きました。続き早く読みたいー待ってますから〜 (2022年7月16日 1時) (レス) @page45 id: 80a471aa5a (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» コメントありがとうございます。嬉しいです(^^)今後、2人はどうなるのでしょうか。いつも読んでくださって感謝です。 (2022年7月12日 10時) (レス) @page43 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さら | 作成日時：2021年5月15日 11時
