彼女の2年間(side N) ページ12
俺の左側で、みおは屋上の柵に両手を置いて目の前の桜に目を凝らす。
そして自分よりもずっと高い位置にある枝に触れようと右手を伸ばすから、
彼女が羽織っている俺のジャケットがその華奢な肩から落ちかける。
俺が慌ててみおに掛け直すと、その薄い肩がほんの一瞬硬くなった。
『あ……、ありがと』
「ん……、冷えるから、羽織ってて」
みおの和やかな空気とはかけ離れた、彼女の胸に秘めた強い緊張感が伝わってくる。
抱きしめたい。
でも、できない。
悔しい。
みおにこんな思いをさせてるのは、紛れもなく自分だ。
俺は静かに、拳を握りしめた。
『……私もね、ヤマザクラを知ったのは去年なの』
「……そうなんだ」
みおは懸命に明るく話すから、俺も彼女の緊張には気づかないふりをした。
『彼……豊田さんが教えてくれた』
「……そっか」
『私が今こうして自然の美しさに綺麗だなって思ったり、感動できるのは、豊田さんのおかげなんだ』
みおの目に涙があっという間に溜まっていく。
みおは素早くそれを拭い、俺に笑顔を向けた。
『全てに絶望してた私をずっと隣で支えてくれたのが豊田さんだった。豊田さんがいなかったら、私は今も立ち直れていなかったと思う』
「うん……ごめんな」
『隆弘に謝ってほしいわけじゃないの。ただ、私には大切にしたい人がいるって、伝えたくて……』
「……」
『豊田さんは、私にいろんなことを教えてくれて、励まし続けてくれた。自然の美しさや素晴らしさに気づかせてくれて、自分は生かされているんだって思えた。
自分を大切にして、周りの人も大切にしたいって、思えるようになったの』
「……うん」
声を震わせて、大切な人に支えられた日々を思い返すみお。
俺は何度も頷いて、そんな彼女のこの2年に思いを巡らせた。
俺には絶対に入り込めない、みおと豊田さんだけのかけがえのない時間が、想いが、絆があるんだと、今さら気づくなんて。
『隆弘とこの桜を見ていたら、そんなことを思い出して、なんか涙出ちゃって……
私……彼にまだ話してないの。隆弘と再会してからのこと……、嘘までついてっ、』
みおはそう言って俯き、目をぎゅっと閉じる。
彼女の苦しさが伝わってきて、
「みお……」
俺は、かつて無いほどの胸の痛みに耐えていた。
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さら(プロフ) - chr916さん» お返事遅くなりました。何度も読み返してくださって嬉しいです。続きを更新しました。コメントありがとうございました。(^^) (2022年10月11日 4時) (
レス) id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» ご無沙汰しています。続きを少し更新しました。いつも感想をありがとうございます。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) @page49 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
chr916(プロフ) - 何度も読み返すくらい大好きです！続きが早く読みたいです🙇♀️ (2022年10月2日 19時) (レス) id: 2b8ccb9b49 (このIDを非表示/違反報告)
ao.ao - 更新ありがとうございます！胸キュン❤️いいなぁ〰と想像膨らませて読ませて頂きました。続き早く読みたいー待ってますから〜 (2022年7月16日 1時) (レス) @page45 id: 80a471aa5a (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» コメントありがとうございます。嬉しいです(^^)今後、2人はどうなるのでしょうか。いつも読んでくださって感謝です。 (2022年7月12日 10時) (レス) @page43 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さら | 作成日時：2021年5月15日 11時
